伝統工芸や古美術品の売買、オーダーメードを手がけるの岡本国裕さんが、伝統工芸品や古美術品を国内や海外で取引する中で、職人さんや海外の文化から学んだこと、数々の試行錯誤や実験を通して気づいたことについて、お話してくださいました。第2回目は、作り手と売り手の垣根を超えた交流を通して目に見えない価値が伝わったときに何が起こったか、についてです。

 


羽田野

漆、漆に限らず伝統工芸で食べていた人たちのサイクルが切れてしまうと、それをきっかけにどんどん縮小していってしまう。

岡本

漆を取り扱う過程で産地に行く。会津若松と山中って会津漆器と加賀漆器ですね。

この2大産地に結構通ってるんですけど。昔の人の話きくと、そのエリア自体が完全分業で成り立ってたんですよ。いろんな職人さんがわっと密集していて、どっかからきたオーダーを伝言ゲームみたいに、バトンタッチしながら一個を完成させていくという産地のルートが流れていたんですけど、どっかで注文が少なくなると、一人やめ二人やめってなって。

いま完全分業がくずれちゃって、漆を掻く人はまだいるんですけど、器にするまでに、今まで木を切り出す人、切った木を乾燥させる人、それを平物丸物って、四角い器か丸いお椀にするのも別の人。

それを下塗り、中塗り、上塗りっていって、厳密にいうと三段階以上あるんですけど、段階をへて塗っていくのも別々の職人さんが全部存在したんです。

ところが今はそんなこといってられなくて。木を切ってる人が器まで完成させて、漆を塗る人は全部塗って、さらに彩色して、蒔絵(まきえ)をして完成させるってぐらいまで、パートが減ってしまってるんですね。

それくらい伝統工芸はいま存続の危機にさらされているって状況を、通ってる中で気づいて。国内需要だけでやってるのはまずなってことで海外に出す方法を考えてくれってことで、iPhoneケースをやらせてもらった。

羽田野

海外への発信ていうのは、減ってしまっている伝統工芸をどうやって生きさせるかという視点だったのでしょうか。

岡本

もともと成田空港で伝統工芸品を販売していたのが、影響が大きかったんですけど。日本の人もいっぱいくるし、海外の人もいっぱいくるんですね。ところが自分たちが並べている商品を面白がって買う人は、7割くらいは、海外の方なんです。

羽田野

海外の人の方が面白がって買う。

岡本

残りの3割の方は、海外の方にギフトとして自分に馴染みのないものを買っていくっていう。意外にも3割の日本人が「こんなのあったんだ」っていうぐらい。

羽田野

こんなのあったんだってのは、知らなかった、初めて出会ったという感じなのでしょうか。

岡本

どっか頭の中で伝統工芸品って、北海道の熊とか、単純なこけしとか、無骨な陶器とか典型的なイメージがあるんですけど、あそこからいまきらびやかに発展してまして。いざ空港ののように各地のいいとこ取りしたようなお店になると、モダンな作品が増えてきまして。そこで日本のお客さんが喜んで買ってくれるのを見てると、「日本の人は知らないだけなのかな?」っていうのが一つと。

日本の技術がすごいなって認識してくださってる海外の方たちを、逃す手はないなって。空港で待ってるだけじゃなくて、自分で動かすって興味を持ち出したのは、震災のあとくらいからです。

羽田野

空港で接している中で、そういう人たちを目の当たりにして、つまり売れ方というのは人がどこに興味をもっているのを表す一つの行動かと思うんですけど、それで外国の人が持っている日本の技術に対する興味関心とか。

あるいは日本の中にも知らないだけで、知れば良さや凄さがわかる人がいるんだと。さっきの話でいうと伝統工芸っていう言葉がもっている先入観。それをきいて最初に人が浮かべるものが木彫りとかこけしとか、そういうもの。

今もあるとは思うけど、実際そうじゃないもの、使ってて楽しくなる、嬉しくなるものもいっぱいあるわけですよね。それに触れる機会自体がそもそもないから、わからないっていう部分もあって。それを自分で動いて、どんどん知ってくれる人を増やそうという流れなんでしょうか。

岡本

着任した当初、成田空港の界隈にいる問屋さんから僕らは商品を仕入れてたんですよ。ところがなんかのきっかけで福井のお箸屋さんに行く必要が出てきて。お客さんから注文もらったってのがあるんですけど。

自分で産地に赴くっていうハードルが最初高く感じてたんですよね。ところがそれ行ってみると意外に面白くて、目の前で職人さんたちが作ってるのを見ると、商品に対する熱の入り方が違うんですよ。それがきっかけでクセになって、自分がほしい商品を探して、職人さんを訪問して行くようになったんですね。

それで物の売り方が変わったんですよ。今までは仕入れてきたものを掛け率に応じて上代を設定して、どこどこの何々ですっていう販売の仕方をしてたんですけど、実際に工房とか職人さんを知ることによって、これはこのエリアで、職人さんがこういうステップで作られていて、さらにここがポイントですよって技術的な面も伝えることができるようになってから、売上が上がったんですよ。

羽田野

この技術的な面っていうのは工房に行ったことでわかったことがあって。それをくにさんの言葉で。説明する時に工夫してたことってありますか?

岡本

口で言ってもわからない部分はどうしてもあったんで、カメラが好きだったんで、職人さんとこ行って許可をとって全部写真とったんですよ。

お店に昔ながらのアルバムを作りましてね、ちっちゃな。それをお客様に見せながら、「ここがポイントでここが一番難しいんですよ」とか。「実はこの表面的な金箔の絵についていうと、一回塗ってから剥がして、これを出してますよ」とか。

手間暇の部分を物語のような感じでお伝えするようになったんですね。それが売り場のスタッフも興味を持つようになって。売上目標を設定するんですけど、それを達成したら、報奨としてみんなで産地を訪問するようになったんですよ。

羽田野

スタッフも興味持つっていうのは、最初から期待してたことですか?

岡本

いや、全然。

羽田野

それは副産的にそういうふうになったんですね。

岡本

僕がね、異常なくらい熱が上がりだして「これはこうなんだー」って。今までは商品を仕入れて、検品して、傷がついてたら返品っていうのが彼女たちの仕事だったんですけど。

僕が作ってる工程とか見せたりするようになってから、「あ~、こんな手間がかかったんだ」って。

今度いっぺん許可をもらって見に行こうかって話ができてから、職人さんとの交流ができて、返品がしにくくなったんです。傷があって当たってたりすると、自分たちで値引きとかして、なんとかして売り切るってことをそこからするようになったんですよ。