伝統工芸や古美術品の売買、オーダーメードを手がけるの岡本国裕さんが、伝統工芸品や古美術品を国内や海外で取引する中で、職人さんや海外の文化から学んだこと、数々の試行錯誤や実験を通して気づいたことについて、お話してくださいました。第7回目は、「先代越えの宿命とニッチ化」「展示会マジック」「製品の生態展示」をキーワードにお話が進んでいきます。

 


羽田野

日本にいる職人さんは気づくことができないわけですよね。知らないんですもんね。そういう状況を。それをくにさんが情報を仕入れて、職人さんにお伝えすることで、新しい工芸品が生まれる。

岡本

原点回帰に近かかったですね。彼らが作ろうとするものは、先代の作品を超えなければいけないっていう大きなテーマがあるんでしょうけど、どんどんモダンになっていって、ニッチな方向に行ってしまう傾向があったんです。

意外に海外の、特に日系文化とか、外国人が描いてる日本のイメージは古典的なものの方が、「これだよね」って喜ばれる。モダンに行き過ぎてしまうと、「これ日本なの?」って進化のパズルが抜けていて理解されないんです。

羽田野

「これ日本だよね」ってものの方が、日本の外ではニーズがあって。

逆に国内でこういうニーズがあるってものを海外に持っていっても、さっきのパズルが飛んでいるではないですけど、そこまでニーズが至っていない。そこのズレは、国内にいる職人さんは、根本的な環境の違いもあるでしょうが、気づくのが難しいんですかね

岡本

職人さんも、人によっては海外の展示会に打って出る人がいるんですよ。

徐々にそういう風潮になってきてるのか、自ら営業かけるんですけど、そこで気づかれる方もいらっしゃる。でも滞在している期間が短いし、会期中って、会場自体イエスマンが多い気がします。

僕の取引先は現地の店舗さんなんで、本当にダイレクトなローカルの意見を教えてくれる。お祭り的な場所と僕が行ってる場所って、根本的にお客さんの温度が違うんですよね。

羽田野

くにさんが行っている場所じゃないと伝わってこない情報があるのかもしれないですね。

岡本

話をきいてると、展示会場ってお祭りみたいなところがあるし、いろんな専門ブースが並んでるんで、けっこうお客さんが飲まれちゃう。

展示する側も、限られたブースを自分たちの商品一色で染めるんで、迫力があるんですよ。そうすると、意外と目のフィルターがゆるくなって。これは展示会場の魔力なのかもしれないですけど。

羽田野

周り何があるのかによって見え方が変わる。いい意味でもそうだし、本当は得られるもかもしれない豊かな情報が見えなくなることも、結果としてはあるかもしれないですね。

岡本

これを展示会マジックって呼んでるんですけど笑

羽田野

錯覚の効果でも、灰色のものが、バックグラウンドが白か黒で見え方が変わるとか。あとは環境の変化で、同じ20度でも、26度が続いた後の20度と、10度が続いた後の20度では感じ方が違う。

ものは、実はもの自体じゃない部分もいっぱいあって、周りの環境とか文脈も影響する。なのでバーンって自分たちの商品が固まってるなかにどーんってその商品があるのと、現地のもののがどーってあるなかにポンってあるのでは、同じものを売ってても人の印象がぜんぜん違ってくるってことですかね。

「そういう中でも手にとってもらえるものって何か」って視点は、そういう中に置いてないとわからないことかと思って。そういうところでは、くにさんが冒険者というか、リアルにいろいろなことを聞いて、困りながら気づいていかれているところですかね。

岡本

売り場に立ってると色々なお客さんがいらっしゃるんで、こっちの出力だけで収まらないところが多いんですよ。

困る入力が結構あって。きかれて答えられないことがいっぱいあるんですよね。それは貴重で。「こういうことあったんだ」ってすぐ調べて、それを繰り返して。海外で、売り場で展示をしてて、すごい原始的なことをきかれることがあるんですね。

自分たちが当たり前に感じてて、「そんなことに気づくんだ」って。そこは日本と海外の違いだったりするんですけど。海外ならではの入力によって、結構展示を変えたりとか、商品のラインナップを変えたりってことして。展示会と実店舗の違いは、展示会って軍隊で戦うんですよ。

ところがショップってのはいろいろなジャンルの軍隊の内の一兵卒とか将軍だけが選ばれて、それがばーって並ぶので、軍隊がバラけてしまって一気に士気というか発信力が下がるんですよね。

羽田野

そのものがもつ発信力って実はどういうものなのかは、そうやってみてわかるものかもしれないですね。

岡本

実際、僕らも展示会場行って、「この商品売れるわー」って思って、仕入れて自分の店舗に置くんですよ。頭の中で展示のイメージ出来上がってるんですけど、いざ置いてみると、他の商品に負けちゃったりとか。

もしいいなと思う商品をとるんであれば、そいつ以外の周りの脇役もとってチームにしてあげないとだめだとわかって。

羽田野

それはすごく興味深いですね。生態学的な環境っていう言葉があって。

生態学って普通の身の回りにある環境のことを総じて指すんですけど、実はそこにあるものは、ものとして存在しているんじゃなくて、その周りにある机とか椅子とか照明の具合とか、建物から見える景色とかが気づかない部分でインプットになっていて、そういうもののなかの一つとしてここに存在している。

だからここから抜き出すと見え方は変わっていくし、ここで見えているものを、他でもそう見せたいなら、これだけじゃなくて、その周りの環境ごと持っていく。

そうすると、少なくとも環境も再現される。たとえばジャングルとかで捕まえてきた動物をそこにポンって置いても生きてられるかっていうとそうじゃなくて。最近は動物園とかでも、生態展示をしていて、生きている環境を全部まるごと見せて初めて、生き生きとした様が見られる。

たぶん工芸品もそうで、生態環境をそのまま再現してあげる。これは主役で、脇役も含めてこの商品。買われるのは主役だとしても、周りの脇役たちがあってこそのこの商品だねってことなのかなと思ったんですけど。それに気づかれる流れも、試行錯誤で発見する流れなんですね。

岡本

やっぱり失敗もありまして。会社にいたからこそ出来たトライ・アンド・エラーっていうのも確かにありますね。

羽田野

それは大きめな失敗だったんですか?

岡本

僕の商売スタイルはビビリなんで、仕入れたものは必ず売り切る。

安くしても、とにかく金額回収はするってやってて。大きな失敗はそんなになかったんですけど、でもやっぱり自分は売れると思って、たまに人好きが講じてしまうことがあって、職人さんと会ってその職人さんがいい人だと品物がそんなでも、つい仕入れてしまうんです。

で、売り場に持ってきて、パートさんと話しながら、僕だけテンション上がってるっていうケースもけっこうありましたね。苦笑

羽田野

人にほだされているという部分も。人の付き合いをしているとそういう部分もあるんですかね。

岡本

ありがちな失敗。あとでパートさんと話してて、「くにさんあれは売れないでしょ」とか笑。

羽田野

冷静な意見も言ってくださる笑。

岡本

「あの職人さんいい人なんだよね」って。そんな話がちょいちょいありまして。

羽田野

そういう失敗もありながら,上手くいかないものを抑えて、上手くいくものを繰り返してって来たんですかね。ありがとうございました。