西本稔大 | 6 刺し身は専門性の結晶

西本さんは、刃物でさばくことが興味の入り口となりました。刃物の理解は、段取りのスムーズさへとつながり、調理の技術に影響します。魚の知識、い い刃物を選ぶ知識があって調理された刺し身は、見た目も舌触りも最高のものです。そういう意味で、刺し身は料理人が持っている専門性の結晶といえます。

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羽田野
のめり込んだきっかけは刃物?
西本
刃物から入ったかもしれない。この仕事はむしろ。刃物使う作業って言ったほうがいいかな。だから日本料理。和食。
羽田野
最初は魚さばく方からだったね。ここが入り口。
西本
魚をさばく、野菜をむく。ああいうものに興味があったのかな。入り口はここだね。一番使うじゃない。中華よりも洋食よりも。種類も何種類も。
羽田野
そうか。刃物の違いがわかるようになったのはいつぐらいから?
西本
思ったより深くて、わかるようになったのはここ1〜2年かな。去年なんか造るところ見に行ったりとか。大阪まで。刃物の歴史調べたりとか。そもそもなんでこんな形になったのか。なんでこれが必要になったのかとか。
羽田野
刃物の目的?
西本
いろんな形、種類があって。たとえば出刃包丁。これが一番歴史が浅い。200何十年か前。これが開発されたのは大阪。なんでかっていうと、大阪湾ではタイがとれた。タイって他の魚よりも骨がしっかりして硬い。ちゃんと切れるような包丁が欲しいってことで考えられた。もともとタイを切るようにできている。
羽田野
はー。じゃタイ用に作られた。
西本
あの太い骨をバサーンって重さでストーンと落とす。刃こぼれしないように。そのためにできた。
羽田野
包丁の知識が増えていくのは自分にとってどんな影響があった?
西本
いまんとこ自己満足だね。よくきかれたときにこたえられるくらいかな。趣味だからね。ほんとはお酒の趣味とかしっかりしていけばいいんだけど飲めないから。いやわかるよ、ある程度仕込みの段階とか米の種類とか。でも自分が味わって飲んでないから説明できない。それよりか刃物のの方がしっかりできる。後輩ができたときアドバイスはしてやれるなって。
羽田野
種類が増えて料理がしやすくなったとかそういうのは?
西本
もちろん。よく切れるにこしたことはない。何回か使って切れなくなるようなものは買わなくなったよ。疲れないとか。持ち手によってタコができやすいとか、重たすぎるとか。そういうものは。
羽田野
こういうのも直接かわからないけど、段取りのスムーズさにつながる?
西本
つながるね。疲れないことでスピードが落ちない。お刺身なんて切れないのでぐちゃぐちゃになってはいけないわけで。スパスパと面が綺麗になっていることが重要で、そうするとそれなりの切れ味が求められる。
羽田野
見た目ではわからないところに違いがでる。
西本
お刺身って一匹の魚からがスタート。あそからがスタート。うろこをバリバリ取ります。そこを失敗したらもうだめ。うろこ残ってたら、ちっちゃいうろこの魚だったら、刺身出たときついてましたってなったらかっこ悪い。そっから始まってる。
羽田野
全身の魚から始まってる。そう考えるようになったタイミング覚えてる?
西本
最初から。うろことらされるのは最初の方やらされることで。口をすっぱく言われた。もっというと魚選ぶときからか。たとえば産地にうちはこだわってて、東京湾でとった白身の魚。他の、たとえば青森とかそういうところとは同じ種類の魚でも違う。
羽田野
魚の種類は一緒でも中身が違う。
西本
産地で。自分好みの魚みつけるところから始めるのかな。
羽田野
それを見分けるわけでしょ?
西本
これは難しい。鮮度はすぐわかるけど、ほんとうに美味しくなる刺身とそうじゃない刺身は難しい。魚屋さんと常にコミュニケーションとることだね。
羽田野
魚屋さんの目利きも。
西本
アドバイスは聞く。産地とか。産地が一番わかりやすい。やっぱり包丁をズッて入れてみないとわからない。
羽田野
切ってみないと。見ただけでは限界がある?
西本
限界がある。
羽田野
そろそろ1時間たちました。話を聞けてよかったです。ありがとうございました。

西本稔大 | 5 失敗をお届けしないために

調理は目に見えない部分でいろいろな予想外があり、失敗はつきものです。天候や魚量などコントロールが難しいものもあれば、あしの早さなどのように知識が増えるにしたがってコントロールできるようになるものもあります。失敗のデータベースが増え、細かな調理技術が積み上がることで、予想外の衝撃は吸収され、お客さんに失敗をお届けしなくて済むようになります。

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羽田野
いまも起こる?
西本
ならないとね。まだ独立とか考えてないけど、仮にするとしたら、自分はなんの資金源もないし、カウンターでやる方が、人数少なくてできたりとか。狭いスペースでできた起こるよ。いろんな予想外。具体的にって思いつかんけど、お、そうくるかって。り。少ないコストでできるのがカウンター形式。カウンターでやる以上これがないと成立しない。予想外のことが起こってくるっていうか。それでも慌てずにこなしていけるようじゃないとダメじゃないか。
羽田野
お客さんの反応で。
西本
そうそう。
羽田野
料理に関しては予想外は起こらない?
西本
まぁたとえば天気が悪くて、魚こない。ほんとはこの料理仕込んでないといけなかったけど、築地にない。これないですっていわないといけない。
羽田野
仕入れに左右される。
西本
仕入れに左右される。自然には勝てないし。やっぱり福島があって、常磐のあのあたりの魚ほとんどだめですと(2014年当時)。そうなると、そこで買ってた人がみんな買うじゃん。魚の数も減るし、減るってことは値段が上がる。いま大変。
羽田野
漁場がつかえなくなることで値段が上がるんだね。どっちかっていうと自分がやってることじゃなくて、市場で取引しているもので値段は変わる。お客さんとか自然とか、自分の外側にあるものに関して予想外が起こる。調理で予想外がだいたい起こらなくなったのはいつぐらい?
西本
どうだろうな。いつぐらいからかな。あー、ごく最近かな。アメリカでも結構起こったし。今の店からだね。
羽田野
いまの店から余裕ができた?
西本
余裕ができてるわけじゃないんだけど、なんだ?まぁ、慣れてきたんだな。小慣れてきたんだな。たぶん。
羽田野
できることに関して小慣れてきた。
西本
まだまだなんで、やっぱり。
羽田野
伸ばしていく部分が新しくいろいろあるんだね。
西本
たとえば仕込んでいたのが、思ったより足が早くて、もうこれ使えんって。あれっていう。いまはもうないけど。
羽田野
仕込んだのに、使えない。
西本
使えなくなってたとか、思ったより味が入ってねーとか。あれーって。特にアメリカで一人。アドバイスくれる人誰もいなかった。
羽田野
そこで自分で考えたり判断したり。
西本
そうそう。「ああもっと濃くしないといけなかった」とか。
羽田野
いま調理している最中に、調理を失敗するってある?
西本
あんまりないけどね、いまは。自分がやってる範囲では。まぁあるよ多少は。多少はあるんだけど、ほぼできるやり方がわかってきたかと。なんとか。
羽田野
失敗がお客さんまで届かないようになった。
西本
そうそう届かない。前は作り直しだよね。そうすると時間もかかる。
羽田野
失敗しないのも大事だけど、失敗が最終的なところで影響をださないことも大事。
西本
だしたらダメ。
羽田野
フォローの仕方はどうやって?
西本
フォローの仕方?そういうときは、待っていただくか、もういいよっていわれるか、代わりのものを出すか。早く出せるやつ。
羽田野
どんな失敗がある?
西本
たとえば焦げるとか。あとはなんだろうな。茶碗蒸しに「す」が入ってしまったとか。プツプツのやつ。
羽田野
あれは入ってはいけないものなんだね。家で作る茶碗蒸しには入ってるから気にしたことなかった。
西本
ぼくらは綺麗にしないと。お金いただくんで。
羽田野
刺身で失敗はある?
西本
あるよやっぱり。
羽田野
どんなのが失敗にあたるの?
西本
たとえば骨が取りきれないとか。厳密なことをいえば、ただ切っているようで実はちゃんとルールがあったり、細かいこと言えば切り方があるわけで、それで食感が全然変わってきたり。
羽田野
この切り方のルールは?
西本
魚っていうのは筋肉質。筋肉ってのは繊維でできているもので。繊維を断ち切るように切るのか、沿って切るのかで舌の上での感じ方が違う。基本的には断ち切る。じゃないと噛みきれないとかなるから。
羽田野
繊維が残ると噛みきれない。
西本
イカだったりすると、イカは一番甘みを感じるのは中心部分。側(がわ)じゃなくて中。丸の輪の中。ここが一番味を濃い目に感じる。ってことはこの面積が舌にいっぱい当たる方が甘く感じる。
そうするとここもしっかり包丁をいれてあげることができるか。そういうことするために切れる包丁じゃなくちゃいけない。道具っていうのが。これはもう一番最初にやることじゃない?
羽田野
やってた?
西本
やってた。チェックもされるし。ちゃんと切れるか。捨てられたこともあるし。
羽田野
包丁を?道具に関しては最初から自分で選んだ?
西本
最初は頂いた。わからないから。頂いたときに、それですごく興味をもった。言い方危ないけど刃物が好きで、だからのめり込んで。いまは自分で種類選ぶし。

西本稔大 | 4 技術は時間にあらわれる

技術は時間にあらわれます。未熟だったころ大変だった作業は、経験を重ねるごとに洗練されます。時間はそれに気づかせてくれます。時間は目安とな り、正しく技術を使えているかの判断を助けます。時間はまた、新しい技術を身につけるよう促すこともあります。限られた時間のなかで接客をどう切り替える か。西本さんのいまの課題です。


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羽田野
どうやって自分で早くなったって気づくの?
西本
早くなったというか、やっぱり気持ちなんじゃないかな。これをやりたい、早くできたいとおもったら、スポーツでもそうだけど練習するでしょ。朝練やるじゃん、密かに。それと一緒のようなところがあるんだと思う。
羽田野
早くなったと実感したのは?
西本
時計ふっとみてあーまだこんな時間って。終わったけどこんな時間って。
羽田野
時計見て、練習して、実感するのは時計見て。いまも見る?
西本
時計は見るね。
羽田野
どのくらい頻繁にみる?
西本
しょっちゅう見てるね。仕込みのときとか。30分おきとか。
羽田野
これは最初のころから変わらない?
西本
変わらないね。時間ってのがあるわけだ。営業時間とか予約の時間とか。それまでには間に合わすっていうのが必要。間に合ってませんってのは本来アウトだよ。
羽田野
間に合わすっていうのが、そもそも人が決めた条件のなかで自分が働いている部分がある。自分が好きで趣味でやってるならいいけど。
西本
プロじゃないですか。なんのための開店時間ですかとか、なんのための予約時間ですかってことになる。
羽田野
プロとは時間をその通りにやる人なんだね。
西本
時間ってものすごく大事だと思う。出勤時間だってそうだし。遅刻を何回もするようじゃダメだ。
羽田野
たとえばいまの時間でいうと、仕込みをしているときに遅れてるなって思うことはある?その場合どうやって埋めていく?
西本
飯をなくして。飛ばすとこはしょうがないけど、自分の時間なくすしかない。
羽田野
他にも飛ばし方ってある?
西本
究極だね。これはある意味ね。ひたすらぶっ続けだからね。
羽田野
それ以外にも時間を作っていく、埋めていく方法はある?
西本
そうするとたとえば、埋めていく、そうだね。なんだろうな。極端な話いうと次の日に回していいもんは回す。その分早く出てきて。いっぱいいっぱいのときは、もう絶対に今日中にじゃないとっていうときは、営業時間終わってからやる。たとえば年末のおせちとか。
羽田野
所定の時間じゃおさまらない。
西本
キャパ超えてるなってなればしょうがない。寝る時間削るし。
羽田野
営業時間内にやることで、遅れてる場合の時間をつくる方法もある?
西本
一応ないよ、ほとんど。むしろ終わるような組み立てにしている。基本的にはない。それが仕事できる人とできない人の差ってそういうところもあるわな。
羽田野
これは段取りを効率的にしていくってことだと思うんだけど、お客さんとのやりとりが入ると、そんなに会話をしなくても、お客さんがどのくらい話すかって自分たちのコントロールを外れるじゃない。その分の時間て、ある程度自分たちの読みとは違うと思う部分もあると思う。そういうときはどういうふうに。
西本
たとえば、カウンターが早い時間満席です。次のお客さん、2回転目?8時半くらいだったら次の2回転目に入りますよってときに、なかなかお客さん帰らない。そういうときがやっぱり、話術の巧みさ。それはもう、経験した人じゃないとできない。言葉悪いけど早く帰ってもらう。でも怒らせないように。当然こちももペースアップして料理仕上げて出していくっていうのもあるんだけど。終わりにするような会話の持って行き方っていうのもある。ぼくはできません。
羽田野
これは大将がやるの?どうやってるの?
西本
聞いてると、たとえばお酒飲んでれば、「もうちょっと飲みすぎじゃないですか」とか。
羽田野
相手のことを考えてる。
西本
そう。それとか「どうですかお腹の方は。そろそろもういいですか?」。そうすると、お腹いっぱいだったらお会計って。できるだけ自然にな流れに。
羽田野
お客さんのことを考えて、お客さんに今の状態を気づいてもらうんだね。結果として長居しちゃっているけど長居のことは言わないで、次のお客さん来るとか言わない。お客さんのために「今こんな状態です。大丈夫ですか?」って。これも気遣っている。大丈夫っていいながら、これをいわれると、お客さんは自分の状態に気づくことができるわけだ。そういえばお腹いっぱいだなって。気づいてもらう。
西本
「あー飲みすぎた」とかな。さっとお茶出したりとか。これがカウンターの独特なあれだよね。ホテルとか料亭みたいなところとは違う。
羽田野
調理する人はやらないよね。
西本
できないね。話す機会がない。

西本稔大 | 3 別もんへ

かつて経験が浅かったころの西本さんは、いろいろな方向から飛んでくる指示が耳に入らず怒られることも多かったそうです。技術を高め知識を深めた今 の西本さんは、献立全体から逆算して段取りを組み、最適な順番で作業するそうです。いろいろな指示というインプットを、献立というシステムで整理し、最適 な作業というアウトプットにつなげています。

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西本
若い頃はしょっちゅうパンクしとったわ。なんだろうなぁ、やっぱり慣れてなくて。あっちからもこっちからもあれやっといてっていわれると、覚えられないんだよ。
西本
やっぱりまだ、なんていうの、スピードだって遅いし、技術もないし。一個の仕事にわりとかかってしまう。一個のことやるならそれに集中してしまう傾向があって、そうするとそれやったら忘れてしまう。あれできてるかっていわれて、あれってなっちゃうなぁ。
羽田野
言ったほうは言ったから覚えている。でもやる方は一個に集中しているから、言われたことは残ってなくて。なんだっけってなる。
西本
ふうって一息ついたら「あれできてるか?」っていわれてってのはあるな。
羽田野
集中は料理にしてる。一個できたらふうってなるくらいの集中力を注いでいる。場合によっては周りの声が聞こえなかったり、集中してるからこそ、外から入ってくる情報って。
西本
それがね、集中というよりか、ほんとは違う集中で。本当に集中しているとたぶん全部聞けるんだよ。なんていうのかな。慣れてくるとな。慣れるとこう、早くなっていく。どうすれば早くなるかなって常に考えないといけない。早く綺麗にするにはどうすればいいのか。先輩はどういうやり方で早いのか見る。そういうのやっていってだんだん慣れてくるわけじゃん。そうなってくると聞けるんだよ、周りの声が。あの人なにしているのかなって。
羽田野
人のことが。それって、ある瞬間そう思った?
西本
だんだんそういうふうになっていくのかな。
羽田野
気づいたら?
西本
そうなっていくのと、あと段取りっていうか、あれやれこれやれっていわれて、どれ優先させればいいのかなって。それがさっき言ってた組み立て。これ急いでるからここからやっていくか。これまだ時間かかっていいんだったら後に回すとか。先にこれやって、時間余裕あるんだったらこれ後にしようとか。
羽田野
時間見て、余裕みて、後に回していいものと、これが急ぐものってわかるようになっていったのはどういうふうにそうなっていった?
西本
なんだろうなぁ。たとえば料理を出す順番からみてってとか。これを割と早めに一皿目二皿目にもっていくものを言われているなぁこれはと思えばそれからやるし、漬け込む時間をしっかりおいてふくませておくもの、これを先にやっとかないと提供のとき味しっかり入らないなとか。
羽田野
提供が一つあって、そこに向かって。
西本
逆算する。
羽田野
最初の頃こういうことを言われたたとしたら、それはどういうふうに受け取った?
西本
もう言われた順番からだよね。わかってないから。
羽田野
言われた順番からってのが最初あって、順番のなかで違う集中、いくつか集中があるとして、調理に集中していると、言われた順番からやってる情報が抜けることもあり。だんだん段取りとかわかってくると、最終的なものに対してどういう順番でやるのかがわかるようになっていった。そうなっていくのが最初、始めたときからの一つの目安。そもそも料理を始めたタイミングっていつなの?
西本
えーといつかなぁ。おれは遅かったんだよな。21とかかな。魚屋をやめてから。21。
羽田野
いつくらいから段取りみえるように?
西本
25とかかなぁ。4年くらいかかったかな。
羽田野
ずっと同じ職場にいた?
西本
うん、同じところ。和食屋。
羽田野
いわれた順番で最初はやってたけど、だんだんそれがわかって、自分で判断できるようになっていった。
西本
献立を理解する。理解できるようにしていかないと、たとえば、なんだろうな。この料理のときになにが必要かわかんないと。特に仕入れとかやらされるようになると、おれもよく忘れてましたってけっこうあったけど。あわてて買いに行ったり。
羽田野
献立を理解しろっていわれたこともある?
西本
あるよ。最初のころは。
羽田野
最初の頃はどういう意味だと思ってた?
西本
漢字でばーって書いてあってわかんないんだよ。最初って。聞くしかない。聞くとか、自分で調べる。本を読んで調べる。読んで、あーこういうことか。その繰り返し。
羽田野
理解するために、見る場所はここを見ようと思って見てる?
西本
より自分の立場に近い先輩がやってるのを。いつ新しい仕事を、今までやってきたもの以外のことをポーンって投げかけられるかがわかんなくて、そこで戸惑っていると干されるんだよね。
西本
見てれば、100%正解できんくても、70%くらいだったらこいつみてたんだなってわかってもらえれば、またチャンスがもらえる。
羽田野
干されるって状況があるんだね。修行の中で。
西本
もちろん。だって、できないやつにやれっていうより自分でやった方が早いじゃん。
羽田野
振られるのがいつかわからないけど、振られたときにできる準備を普段からしていて。立場に近い人の仕事は、次に自分がやる可能性が高い。
西本
あんまりかけ離れたのやってもわけわからんから。
羽田野
かけ離れた上の。
西本
難しい仕事とか、最初の方。
羽田野
いまの自分は、この21歳の頃から比べるとかけ離れたところにいると思う?
西本
もちろん。もちろん別物だね。
羽田野
このときの自分に教えることがあるとすると、何をこの段階でできるといい?
西本
最初のころ?そうだなぁ。なんだ?失敗を恐れるな。とにかく、わかるまで聞きに来い。
羽田野
それは失敗は怖いんだね。
西本
怖いね。いまでも。すげーやでしたくない。なんだろうな。若かった自分に言いたかったこと。やっぱそれだな。知らないものを知らないままにしとかない。
羽田野
知らないものを知らないままにしない。これを聞いた自分はなんて言いそう?
西本
そんなんわかっとるわ。わかっとるわっていうんだろうけど、より積極的に。おれはあんまり積極的じゃなかった。そこがちょっとダメなところなんだけど。
西本
もっといいよ食ってかかって。仕事って横取りしにいかなきゃ。それは自分もだし、いまの若い子もあんまりない。自分からやっぱりとりにいかんとなって。そのためには、自分の段取り、自分の仕事いかに早く終わらせて、人のやってるのをいけるか。自分のをおざなりになって、人にこれやらせろっていうのは筋が違うことで。自分のとこちゃんと終わらせて、それから人のを。
羽田野
自分の仕事をどれだけ早く終わらせられるか。
西本
先輩が来るころにはできてないといかん。

西本稔大 | 2 作り分けられる技術

料理はお客さんと料理人が協働で作るもの。それがお店と西本のさんの調理スタイルです。協働を実現するためには、お客さんが明示・暗示するさまざまなサインをキャッチする技術、そしてキャッチしたサインをもとに料理を作り分けられる技術が求められます。

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羽田野
これはいつぐらいからこういうことをやるように?
西本
やり始めたのは今の店からだね。カウンターで仕事しはじめたの自体が初めて。
羽田野
それまでは調理場に。
西本
調理場の中にいたからね。カウンターはカウンターですごく大変。見られてる。言動もそうだし、立ち振る舞いも。バタバタやってってのは。ある程度スマートに見せるというか、意識してないと。
羽田野
大きなものを落とすとか。調理場の中だったら・・・
西本
おさまるけど。あと気配りをして。お客さんは何を欲しがってるんだろうなっていうふうには。
西本
忙しくなってくるとだんだん口数も減ってね。そこらへんがまだまだ自分の課題。むしろこっちの方がおそろかになる。忘れたりはしないんよ、自分のことは。お客さんの方がやっぱりおろそかになっちゃう。
羽田野
自分のなかで優先順位は作っているの?
西本
うん。たとえば、カウンターとテーブルってあったとき、カウンターよりもテーブルの方が気付いてあげる。離れてる分、気にかけてないと、お客さんのほっとかれる感が大きくなってしまう。若干優先的に。常連さんだと忙しくなってくると待ってくれたりする。そういうときはひとこと声かけてフォローする。
羽田野
声があるないで。
西本
全然違う。そういうことなんだと思う。カウンターって。
羽田野
声をかけるっていうのは、どういう流れのなかでそうした方がいいの?
西本
たとえば、そうだね。お皿がもうだいぶ空いて時間がたってる。なかなかそこまでいけないので。そういうときは一言二言。あとは、なにか欲しそうだなとか、動作とかサインなんとなくやっぱりわかる。
羽田野
欲しそうな動作とかサインっていうのは?
西本
メニュー見始めたとか、お寿司屋だからネタをみたり。カウンターだから。逆にテーブルはそういう情報がほとんどないから、なおさらこっちから読み取るようにしたり。
羽田野
カウンターのお客さんはサインが出るんだね。それが気づきやすいサイン。テーブルのお客さんは出てるかもしれないけど、見えにくい。自分から見に行って注目しないと気づかない。
西本
それがだいたい営業時間に気遣ってることかな。
羽田野
営業時間内に考えてることを1〜10のなかで割り振ると、今のなかで、まず調理がある。夜については仕込みは入っていない。調理と接客、接客のなかでも特にフォローを気にしている。目配りもテーブルとカウンターで違う。それから常連さんかどうかでも違う。
西本
常連さんだとどんなもの好きかわかってくるけど、一見さんの場合って、より事細かにやらんと。
羽田野
事細かく。それは常連さんと比べると知ってることが少ないから?
西本
少ないし、向こうもある程度緊張してくるから、緊張を和らげてあげないと。
羽田野
そういうところもフォローする。調理でするのって、どういうのがある?
西本
基本的に最終調理。だいたい仕込みでやってあるから。あとは焼き物、もうおつまみ系はほとんどできてて、盛り付けるだけでパッと出せるようになってる。焼き物とかってのは通ってから。蒸し物。あとはお刺身つくるとか。お造りとか。あとは寿司屋だから握りとか。
羽田野
焼く蒸す切る。
西本
切って盛るだけっていえばそうだけど、お刺身でも好みがある。そういうものとか、たとえば、うちで勧めたいものがあるとか。時期で変わってくるから。
羽田野
だいたい営業中のやることは今の内容で。大きくまとめると自分の頭のなかの割り振りって、割合はどのくらい?調理と接客で分けると。
西本
割り振り?本当は10-10じゃないとだめ。昔は全然できなくて、調理が10で。これがやっぱ課題だと。そういうところをいま教えてもらってる。やっと少しずつ見えてきたなって。意識は5-5なんだけど、やっと今7-3だったり6-4の意識になってきたかな。
西本
どれだけ美味しくても待たせたりフォローなかったら美味しくないんだよ、お客さん。人間だから。自分が行ったときはそうだもん。自分なんか一人で行くから、ぽつーんとほっとかれるとあんまり気分よくない。なかなか出てこなくても一声あったら嬉しい。
羽田野
自分の客としての体験もあって、どういうのがいいのか調べてる。
西本
そういうのも見に。素晴らしい接客する人ってすごいんよ。こんなふうにされたらそれはいいわな。少し高くても、このレベルならって思わせる。
羽田野
値段以上の接客が感じられる。
西本
やっぱりよく気持ちとか心って言うけど、そういうところなのかなって。これをやっと35、6になって気づき始めている。
羽田野
前までもそうことは大事だと思ってた?
西本
漠然とは思ってたけど、頭そんな柔らかくない。この一個をつくるのに全精力傾けたいんだと。焼くならもう、極端な話、魚の水分量どのくらいかとか完璧なものを作りたいってのがある。接客の方とかってなかなか難しくて。
羽田野
これって逆の配分の人もいる?
西本
いる。特にお寿司屋さんとかしゃべっていくらとかだからしゃべんないと。それがカウンターっていう形態の特徴。たぶんこれ日本だけだと思うんだよね。お寿司屋さん、カウンターって。しゃべって、コミュニケーションから生まれる。お勧めというか、おまかせって出すときもあるけど、お客の意見をきいて、客と料理人で作っていく。うちはどっちかっていうとそういうスタイル。いろんなお寿司屋さん、うちはお決まりですってところもあるけど、うちはお客の意向をきいて。
羽田野
お客さんから聞く情報が調理につながる。どういうふうに情報をえられるかは、そのまま調理の一つの要素になる。
西本
そういうふうに作り分けられる技術があって、できないといけない。
羽田野
自分がやりたいようにやっているだけでは。
西本
それでは足りないんじゃないかな。
羽田野
ここはこう、かたち上わけているけど、両方とも重要な影響を与えあう。この容量を超えることってある?頭の中で一度に処理できる量はある程度決まっているといわれていて。納めるようにやり方工夫したりとか。皿を外に出すと覚えておく容量を削減できたり、全部準備してあと盛るだけにすれば、そこにかける手間を事前においておける。そのとき使える容量を確保する工夫がいっぱいあると思った。場合によっては処理できる以上のものもくると思うんだけど。超えることってあるの?
西本
超えることは、むしろ体が一つしかないから体が追いつかないけど、頭がパンクすることはそんなない。それだけの規模だから、それ以上はお客が入ってこない。店の大きさとかだったり。