例えば、腕の良い料理人は、
素材や調理方法について豊富な知識を持っています。

また、いくつもの包丁を使い分け、
それぞれの包丁の良さを最も活かせる方法で扱うことができます。

さらに、味や見た目も含めた料理全体の質に、高い水準を求めます。

つまり、技能をシンプルに捉えると、
知識、やり方、水準が組み合わさったものといえます。

知識

例えば、加工や施工などのオペレーションにおいて、
素材やケーブルの名前、工具や機器の名前、
作業工程の名前やその全体像など色々なことを知っている必要があります。

また、素材や道具がどのような性質をもつかや、
オペレーションで何に気をつけるべきかなども、知っている必要があります。

これらの技能に関する知識は、
技能の構成要素の一つとなります。

こうした知識は、意味記憶と呼ばれます。
※Squire(1987)の分類をもとにしています。

やり方

例えば、素材の加工や配線の引き回しなどの方法を知っていても、
実際に自分の体や道具を使って行えなければいけません。

また、見ておくべき点に注目し続け、体を適切に動かし、
ちょうどよい加減で力を入れることなど、
自己コントロールも必要です。

これらのような「やり方」に関連する記憶は、
「手続き記憶」と呼ばれます。
感覚的で、目に見えにくく、暗黙的です。

水準

例えば、加工の精度は十分か、
施工したものの損失が許容範囲か、
図面通りの施工か、ミスはないか、
適切な時間配分かなど、
高い品質を得るために達成すべき水準は
いくつもあります。

目指す品質を得るために、
知識ややり方をどのくらいのレベルで発揮する必要があるか、
つまりその水準をどこに設定するかは、
技能の一部だといえます。

記憶の仕組みでは、「メタ記憶」と呼ばれます。

向上の仕組み

上にあげてものに加えて、重要なのが向上の仕組みです。

優れた技能者は自分の技能を高める手法も持っています。
そして、どのような練習をどのくらいの時間や強度で行えばよいかを、
常に探求しています。
また、自分のストロングポイントやウィークポイントを見極め、
自分の良さを伸ばすためにトライし続けます。

言い換えると、自己鍛錬の方法論を持っているといえます。

この向上の仕組みを伝えることも、
技能を伝えることの一部だと考えられます。

向上の仕組みは、それ自体が一つの技能とも言えるので、
上で述べた宣言記憶、手続き記憶、メタ記憶のすべてが
当てはまります。