技術は時間にあらわれます。未熟だったころ大変だった作業は、経験を重ねるごとに洗練されます。時間はそれに気づかせてくれます。時間は目安とな り、正しく技術を使えているかの判断を助けます。時間はまた、新しい技術を身につけるよう促すこともあります。限られた時間のなかで接客をどう切り替える か。西本さんのいまの課題です。


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羽田野
どうやって自分で早くなったって気づくの?
西本
早くなったというか、やっぱり気持ちなんじゃないかな。これをやりたい、早くできたいとおもったら、スポーツでもそうだけど練習するでしょ。朝練やるじゃん、密かに。それと一緒のようなところがあるんだと思う。
羽田野
早くなったと実感したのは?
西本
時計ふっとみてあーまだこんな時間って。終わったけどこんな時間って。
羽田野
時計見て、練習して、実感するのは時計見て。いまも見る?
西本
時計は見るね。
羽田野
どのくらい頻繁にみる?
西本
しょっちゅう見てるね。仕込みのときとか。30分おきとか。
羽田野
これは最初のころから変わらない?
西本
変わらないね。時間ってのがあるわけだ。営業時間とか予約の時間とか。それまでには間に合わすっていうのが必要。間に合ってませんってのは本来アウトだよ。
羽田野
間に合わすっていうのが、そもそも人が決めた条件のなかで自分が働いている部分がある。自分が好きで趣味でやってるならいいけど。
西本
プロじゃないですか。なんのための開店時間ですかとか、なんのための予約時間ですかってことになる。
羽田野
プロとは時間をその通りにやる人なんだね。
西本
時間ってものすごく大事だと思う。出勤時間だってそうだし。遅刻を何回もするようじゃダメだ。
羽田野
たとえばいまの時間でいうと、仕込みをしているときに遅れてるなって思うことはある?その場合どうやって埋めていく?
西本
飯をなくして。飛ばすとこはしょうがないけど、自分の時間なくすしかない。
羽田野
他にも飛ばし方ってある?
西本
究極だね。これはある意味ね。ひたすらぶっ続けだからね。
羽田野
それ以外にも時間を作っていく、埋めていく方法はある?
西本
そうするとたとえば、埋めていく、そうだね。なんだろうな。極端な話いうと次の日に回していいもんは回す。その分早く出てきて。いっぱいいっぱいのときは、もう絶対に今日中にじゃないとっていうときは、営業時間終わってからやる。たとえば年末のおせちとか。
羽田野
所定の時間じゃおさまらない。
西本
キャパ超えてるなってなればしょうがない。寝る時間削るし。
羽田野
営業時間内にやることで、遅れてる場合の時間をつくる方法もある?
西本
一応ないよ、ほとんど。むしろ終わるような組み立てにしている。基本的にはない。それが仕事できる人とできない人の差ってそういうところもあるわな。
羽田野
これは段取りを効率的にしていくってことだと思うんだけど、お客さんとのやりとりが入ると、そんなに会話をしなくても、お客さんがどのくらい話すかって自分たちのコントロールを外れるじゃない。その分の時間て、ある程度自分たちの読みとは違うと思う部分もあると思う。そういうときはどういうふうに。
西本
たとえば、カウンターが早い時間満席です。次のお客さん、2回転目?8時半くらいだったら次の2回転目に入りますよってときに、なかなかお客さん帰らない。そういうときがやっぱり、話術の巧みさ。それはもう、経験した人じゃないとできない。言葉悪いけど早く帰ってもらう。でも怒らせないように。当然こちももペースアップして料理仕上げて出していくっていうのもあるんだけど。終わりにするような会話の持って行き方っていうのもある。ぼくはできません。
羽田野
これは大将がやるの?どうやってるの?
西本
聞いてると、たとえばお酒飲んでれば、「もうちょっと飲みすぎじゃないですか」とか。
羽田野
相手のことを考えてる。
西本
そう。それとか「どうですかお腹の方は。そろそろもういいですか?」。そうすると、お腹いっぱいだったらお会計って。できるだけ自然にな流れに。
羽田野
お客さんのことを考えて、お客さんに今の状態を気づいてもらうんだね。結果として長居しちゃっているけど長居のことは言わないで、次のお客さん来るとか言わない。お客さんのために「今こんな状態です。大丈夫ですか?」って。これも気遣っている。大丈夫っていいながら、これをいわれると、お客さんは自分の状態に気づくことができるわけだ。そういえばお腹いっぱいだなって。気づいてもらう。
西本
「あー飲みすぎた」とかな。さっとお茶出したりとか。これがカウンターの独特なあれだよね。ホテルとか料亭みたいなところとは違う。
羽田野
調理する人はやらないよね。
西本
できないね。話す機会がない。