アカギさんに、花火師が花火を学ぶプロセスと、その中の負荷についてお話を伺いました。4回目は、打ち上げ準備で、「時間を調整する」プロセス です。このプロセスでは、作業を取捨選択するには、作業の全体像を見ていること、省いた場合の影響が少ない箇所を知っていることなどが重要、という点がみえます。

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羽田野
2万発上げるような現場だと、職人さんは何人くらいいるんですか?
アカギ
2万発だと、さすがに、一週間くらい準備する。だいたい10人くらいで。現場責任者もいる。
羽田野
10人くらいで作業していく。組んでいく時間って、スケジュールよりも遅れるケースと、その通りに進むケースだと、どちらが多いですか?
アカギ
打ち上げはだいたい19時とか20時なんですけど、15時くらいには終わるようにやっている。ただ、こんなに多くの箇所をやっていると、夏の終わり頃にはみんなバテバテなので、打ち上げ3分前に終わったとか、そういうことが良くあります。
羽田野
3分前でも、進行は影響受けてない。
アカギ
うん。遅らせちゃったら仕事が二度ともらえなくなる。
羽田野
こういうときって思ったより遅れるじゃないですか。そのときって、どう遅れを取り戻していくんですか?
アカギ
もう最悪の場合は、省く。
羽田野
どんなことを省きます?
アカギ
たとえば、5箇所で上がるものだとしたら、3箇所にしちゃうとか。
羽田野
3箇所にしても大丈夫な部分を省く。
アカギ
見え方。5箇所あったら豪華じゃないですか。それが3箇所になるとちょっと豪華じゃなくなるけど、まぁバランスは取れている。2と4を抜くわけですよ。
羽田野
抜いても最低限、見え方に大きく影響しないようなところを抜く。他にも省く所はありますか?
アカギ
省く気になりゃぁ、かなり。スターマインてきいたことあります?あれを、20発上がるところを、10発にしたりとか。間引きする。悲しいけど。
羽田野
これを省くとこのくらい時間が省けるっていうのは、頭のなかにイメージが浮かぶものですか?
アカギ
だいたいわかります。
羽田野
間に合わないなって思うのは、どのくらいのタイミングですか?
アカギ
14時くらいになるとわかるんじゃないですか。「やべー」って。
羽田野
このくらいから省く作業に入っていきますか?
アカギ
とりあえずギリギリまでやって。19時打ち上げだったら16時までやってみて、「あ駄目だこりゃ」ってなったら、間引く。
羽田野
超えられない点の前に、このままいくとまずいっていうのがわかって、やっぱりやばいってなると、仕方なく間引いていく。間引く際の優先順位もありますか?
アカギ
その時のデザインで。
羽田野
デザインによって、ここを間引いてもデザインを損なわないだろうという点。
アカギ
考えながら。「どうかなー」って。現場責任者がいるから、何かあったら全責任とるから。「ここまびくよー」とか言いながら。「はーい、やっちってくださーい」って。
羽田野
全体の過程を、どういう順番で、どう上がるかわかってないと、間引く判断は適切にならないですね。
アカギ
全体像が見えてないとわからないと思う。
羽田野
これは、その場の判断だと思うんです。時間がないほど焦るというか、冷静な判断が難しくなると思うんですけど、そういう時に、こういう判断するのは難しいと思うんです。慌てて、あわあわしないんですか?
アカギ
あわあわはするので、一応10時と15時に休憩があるから、「このままじゃおわんねーよー」って言いながら「どーする?」なんていいながらやるので、じゃああそことあそこをって
羽田野
そうなったらこうしようねってなんとなく合意を作ってて、実際なったらそうしていく。省かれやすい場所ってあるんですか?典型例とか。
アカギ
高いところのフラッシュとかトーチとかつけるとすげー時間かかるんですよ。海辺とかでやると、コンクリの波止場みたいな、防波堤みたいなのがあって、高いところにあったりすると、階段登って、コードひっぱらないといけない。トーチいらないよねって。トーチは光る道具。打ち上がらないから、そういうのを省いたりとか。めんどくさいやつを。
羽田野
場所もあるんですね。海岸に近くて防波堤とかで登り降りがうまれる場所だと
アカギ
また時間がかかる。
羽田野
時間がかかりやすい場所かも事前に考えておくと、トーチを抜くって判断に繋がる。準備しているあいだに、思ってもみないトラブルが起こることは?
アカギ
もう毎回。
羽田野
作業が進んでて、トラブルが発生すると、トラブルが割り込んできて、実際の作業がずれていって、トラブルを解決して戻るのか。別のルートに行くと思うんですけど、どんなトラブルがありますか?
アカギ
持ってきてるはずの筒がないとか。予定していた場所が移動になってるとか。こっちはダメなんですって。玉自体が別便で頼んでおいたのが、届かないとか。
羽田野
これイタリアのでありましたね。ないっていうのが。
アカギ
しょっちゅう。そんなことばっかり。用意されてるはずのプログラムと違うエフェクトが入ってたりとか。柳のところが菊が入ってたりとか。
羽田野
柳のエフェクトが菊のエフェクトになっていたり。
アカギ
あとは、秒時っていって、火をつけていっぺんに火が入って、導火線の長さで、秒時を切ってるわけですよ。
羽田野
導火線の長さで、秒を測ってるわけですね。
アカギ
そう。1cmで1秒っていうのがあって、それで連続で上がるようにしてるんですけど、それが全然てんでバラバラだとか、「やばい、こんなんだっらみんないっぺんにに上がっちゃうよ」って。
羽田野
上がるタイミングが想定したものじゃなくなるんですね。現場でどうにかするしかないんですか?
アカギ
資材は持ってきてるから、導火線を切り直しやる。
羽田野
ここで、一旦割り込みが入るわけですね。割り込んだ後、対処が必要なものばかりですか?ほっといてもいいものもありますか?
アカギ
いや、対処しないと。
羽田野
割り込まれた後、戻るときに、どこで中断したかとか、どういうふうに把握していますか?この長さだと全部一緒に上がるって気づくと、作業が止まりますよね。トラブルに対処して元やってた作業に戻る。どこまでやってたっけ?ってわからなくなることはありますか?
アカギ
たまにあります。同時多発的に色々起こると。
羽田野
そういうときって、どうするとうまく対処できますか?
アカギ
設計図があるから、そこにここ足りないとかここダメってメモしていくとか、人に頼んじゃにますね。あれだめだから直しといて。
羽田野
頭だけにしないんですね。
アカギ
そうするとと必ず忘れる。
羽田野
忘れたこともありますか?
アカギ
うん。上がんなかったけどね。「あれ?忘れた」って。スポンって音がなるだけの時があった。そういう時もあります。
羽田野
書いてやっていくようにしたのって、いつくらいですか?最初打ち上げ担当になったからすぐにやってました?
アカギ
だいたいメモってましたね。最初から。必要だと思ったから。
羽田野
そうしないと忘れることもあるから。していない場合と比べて、どんな利点がありますか?
アカギ
忘れない。職人さんはだいたいメモんないから忘れるんだけど。で、後で思い出す。打ち上げる前くらいに「あ!」って。
羽田野
メモらないで忘れて、打ち上げる前に思い出す。職人さんはメモがあまり好きではない人が多いですか?
アカギ
そうです。でもね、やっぱりみんな結構覚えてるんだよね。メモしなくても。「あそこの打ち上げポイント3のあれはどうした?」とかきくと、ぱって答えられるから、ちゃんと覚えてる。