「本番展開の予測テスト」を使った個別面談のやり方をご紹介します。
テストといっても採点するわけではありまん。
本番ではどんなトラブルが起こってそこでどんな認知負荷がかかりどうなるかを、見本のようなシートを使って想定し、その対策をたてるテストです。トータルの実施時間は30分くらいです。

シート見本

やり方

形式

指導者と選手が、1対1の面談形式で行うことを想定しています。まず選手がA.テストに記入し、指導者がその内容をもとにB.面談を行います。その後、C.実践で検証します。

A.テストに記入

  1. 記入の目的と、記入の範囲(以下の2〜5)、記入時間について指導者から選手に説明します。その後、記入を開始します。
  2. 選手は職種の作業時間を記入し、全体の作業工程を記入します。
    この工程は、選手によって異なる場合があります。
  3. 全体の作業時間の20、40、60、80%のとき、どの工程で、どのような作業をしているかを書きます。%ではわかりにくいので、例えば「20%のときは何分?」と記入前に質問し、分や時間に換算しておきます。
  4. その右の欄に、その場面で想定されるトラブルや、そのトラブルがあった場合に進行がどう変わるかを書きます。
  5. ミス発生可能性、時間負荷、WM疲労を1〜5で評価します。ミス発生可能性は、その作業工程でミスがどの程度起こりやすいかです。
    1は全く起こらない、5は非常に高い確率で起こるです。
    時間負荷は、その作業工程の時間的余裕の無さや時間に追われている感覚の強さです。
    1は全く感じない、5は非常に強く感じるです。
    WM疲労は、複雑な作業、精度の必要な作業などで頭を使い、疲れやすい度合いです。
    1は全く疲労しない、5は非常に疲労するです。

記入時間
5分で記入します。この時間内に書き終えるマネジメントや、時間を気にする感覚も重要です。思い出しながら書いていては間に合わないため、工程についてどのくらい深く理解しているかや、どれだけいつも考えているかも、推し量ることができます。

記入例

B.面談

  1. ミス発生可能性、時間負荷、WM疲労を色分けします。
    1は青色で塗ります。4と5は赤色で塗ります。青色はあまり注意を必要としない場所、赤色は注意を要する場所となります。
  2. 次に、「以下のイベントはどのタイミングで発生しますか」を見ていきます。この3つは技能五輪の作業中に起こりやすい認知的イベントです。
    1つ目は集中の谷間です。精度や速度が高いレベルで求められ、ちょっとでも気を抜くとミスをしてしまうような工程の後に、ふっと集中力が低下してしまうような状況です。
    2つ目はイージーミス。100回やったら99回は正しくできるような作業のミスです。
    3つ目はペースメーキングのズレ。想定した作業の時間と実際の作業の時間がどのくらいズレているのか、ズレやすくなるのかを表します。
  3. 選手とヒアリングしながら、指導者はどこがS(集中の谷間)になりそうか、E(イージーミス)になりそうか、M(ペースメーキングのズレ)になりそうかを記入していきます。そのとき、作業進行の記入があいまいだったり不確かだった場合は、明確化していきます。
  4. イベントの対策を考えます。例えばS(集中の谷間)は、一般的に複雑な作業をした後や休憩空けの直後に起こりやすい現象です。
    そういうとき、例えば集中力を高めるためにコーピングを組み合わせるなど、対策を考えます。
  5. 時間に余裕があれば、「過去に起こった想定外のイベント」を聞き出します。自分のことだけではなく、他人が経験した事も知っているかを確認します。指導者が知っているイベントがあれば伝えます。
  6. 実際の訓練で実行し、効力を高めていきます。

記入例

C.実践で検証

通し作業の前に予測し、通しが終わった後に記入したものと実際の作業にどのくらいずれがあったかを確認すると、効果的です。通し作業に対する予測の誤差が減っていき、予測力が高まります。さらに通し作業のたびに繰り返すことで、SやE、Mが起こりにくくなること、起こった場合にどうすとよいかの対処方法を訓練することもできます。

上記のシートは作業全体を想定していますが、その区切りを10%単位などのようにもっと細かくしたり、各工程やセクションごとに区切ったりしてテストすることもできます。その場合、より詳しく選手の状況を分析することができます。

解決を目指す問題

・集中力が続かない
・冷静さを失う/焦ってしまう
想定外のミスが起こる
気づいたら時間に遅れている
・イージーミスを起こす
ミスが連鎖する

期待される効果

・予測力が高まる
集中すべきポイントがわかる
作業への集中が途切れても再び集中できる
・作業ミスを予防できる
工程についての理解が深まる