伝統工芸や古美術品の売買、オーダーメードを手がけるの岡本国裕さんが、伝統工芸品や古美術品を国内や海外で取引する中で、職人さんや海外の文化から学んだこと、数々の試行錯誤や実験を通して気づいたことについて、お話してくださいました。第5回目は、職人さんのパッションをお客さんに伝えるメッセンジャーとしての役割と、そのための具体的な工夫についてです。

 


羽田野

ものの背景にいる人とセットで、ものが認識されるようになっていった。そうなると、ものをただ置くのと、人がそこにいると思うのでは、扱いが変わるのかなと思います。

そのもの自体から引き出される色々な感覚とか知識が、接する中でどんどん変わっていったというような印象です。

岡本

伝わりづらいかもしれないんですけど、職人さんはパッションもってお仕事されてるんです。このパッションをどう買う人に伝えたらいいのかなって考えたことがあったんですね。

僕らも同じようにパッション持ってないとだめだなと。そこに対して販売する責任が生まれたような気がするんですよ。

羽田野

ものを売るのではなくて、パッションを伝えることの責任。

岡本

問屋さんによって、職人の思いや工夫が半減しちゃったような状態で、品物を受け取るのが僕らの立ち位置だったんですけど。

産地へ直接行って、もちろん問屋さんから品物を買うんですけど、直接職人さんと交流を続けながら、彼らの熱意や工夫とかを、僕らがしっかりお客さんに伝える。

羽田野

ここで、伝わってこなくなっていたものを、問屋さんを通してだとパッションの点だと、半減したり、伝わってこないこともあったかもしれない。

それを直接訪問することで、ものの流れは問屋さんを通すのかもしれないけど、パッションの流れみたいなのは、直接売り手側に伝わるような。

新しい感情というか感覚が伝わるルートが開かれていったような感じでしょうかね。

岡本

これ本当に面白い反応で。僕らが情熱をもって売っていると、お客さんが感じてくれる瞬間があるんですよ。それはどういう瞬間かっていうと、お客さんが「へぇ〜笑」って言うんですよね。

これはね、僕らが言わせたら勝ちなんですよ。

羽田野

「へぇ〜」って言葉が出ると、それは伝わったなと感じる。ひとつのキーワードなんですね。

岡本

そうなんですよ。僕らがこうなんですよねって話をして、興味のない人は、「そうなんですね、へぇ」とか適当な感じで終わっちゃうんですけど、それに対して興味を持った瞬間、人間って「へぇ〜笑」って言うんですよ。

羽田野

思わず出ちゃうっていうのはありますね。確かに。

岡本

その「へぇ〜笑」をゲットするために、説明の仕方を工夫するようになったんです。

長い歴史の中で構築された工程の中に、本来職人さんが伝えたい要素っていっぱいあると思んですけど、その中でどの要点をお客さんに手短に伝えられるかが重要で、たぶん30秒ぐらいで伝えないと。

30秒でも長いかもしれないですね。

羽田野

本当に限られたものなんですね。30秒くらいで伝えられるものを、職人さんの持っている無数の伝えたいこと、伝わって欲しいことから、どうやってそれを?

岡本

最初は全部を伝えようと思ったんですけど、やっぱりお客さんは現場を見てない。

僕らは見てるんで、この違いは大きいじゃないですか。これをどういうふうに伝えようかなって思った時に、色々試したんですけど、結果として、重要なポイントを最初にボンって投げてしまう。そこで「へぇ〜笑」って言ってもらえると、説明がしやすくなる。

羽田野

「へぇ〜笑」って言ってもらえそうなことを最初の30秒でいって、「へぇ〜笑」って言うってことは次も聞く準備がある。そこに次の説明も足していく

岡本

チャプター1、2、3ってことですね。まず最初に1で、これに食いついてきたら、2、3と。でも3に行くまでに、お客さん「これ買うわ」ってぐらいの感じになってます。

羽田野

チャプター1をこえて、2までいけば、買うに近いんですかね。

岡本

どんなお客様がどの棚の前に立ってるのかで、話しかける言葉をおおよそイメージして話すんですが、ヒントは新聞の見出しのメカニズムでした。

一番最初に大見出しがあるじゃないですか。

あれでキャッチできないと、その文章全部読んでもらえない。あれをパッと見たときに興味をもって次の段落に流れ、その次の3行まで。3行まで読んじゃうと、バーっと全部読む。

キャッチーな情報から、だんだん情報を細かく説明して物語に引き込む事を練習しました。

羽田野

最初大きくてキャッチ出来る情報を伝えて、その後ちょっと細かく伝えて、それでも読んでくれる人は全部伝える。3段階くらい関門がある感じですかね。

一番最初に、職人さんのパッションの中で一番伝えたいことを。こういうものを伝えると一番目を通過しやすいみたいなのはあるんですか?

岡本

たとえばお箸とかこけしとか木工系商品のほぼすべてが共通しているんですが、伐採した木材がありますよね。で、切った木材を目的の形にしていくまでの間に、木って生き物なので、湿気と乾燥を繰り返す途中で歪んできちゃうんです。

これを動かないようにするために、最低2年は乾燥させて落ち着かせるんです。

羽田野

へぇ〜笑。て、なるんですね、今ので笑

岡本

なので、ぱっと目の前にあるのは千何百円の商品だと手が出しやすくて買っちゃいますよね。

それがどういうプロセスで作られてるか僕らわからないですけど。あの千数百円のものが、木が伐採されてから実際に売り場に来るまでに数年たってると思うと、ちょっとびっくりしません?

羽田野

価値が変わる気がします。工場にバーって流れてきて、ザザザザってできてるんだろう、しかも材料も作ろうと思ってから1週間くらいでできちゃっていてっていうスパンで想像してるので。

入り口に立つ前に素材が2年使ってるってきくと、ものの値段に対して価値がすごく高く感じますね。

岡本

美術品には時値打ちって言葉があるんです。時間の経過を値打ちとして考えると、千数百円に対して二年のコストは、十分以上の値段だと思ったんです。

時間は買えないものなので、お客さんに一番最初に時間を言うんです。木関係とか。あとはその製造のステップ。具体的にわかるものでしたら、この商品がここに並ぶまでに、十何工程経てきてるんですよって。

数字ってわかりやすいので。時間だったりステップだったりを先に伝えるようにするんです。そうするとその瞬間になんでって思うことが多くて。それがなんで?疑問になったとき同時に「へぇ〜笑」とでる。

羽田野

なんでそんなにかかるんですか?みたいな。実はこの木、伐採してから2年もおいてあるんです。で、「なんでそんなに置くの?」ってなったら、伸縮とか色々あるから、安定するのにそのぐらいかかるって話。

それを考えると数字が一つの、職人さんの、一見するとパッションって情熱で、あいまいで感覚的で、数字って合理的で無機質な印象があるんですけど、実はパッションを伝えるために数字の効果って大きいんですね。

それって試行錯誤で気づいていったんですか?

岡本

試行錯誤かもしれないですね。

いろんな人に話しをして、どれが一番面白がってきいてくれたのかなって。接客業の過程だけじゃなくて、友人とか自分に興味をもって話を聞いてくれる人に、自分の職業の説明をするときとかも、全部そうなんですけど、相手の反応みてると、あーこれ刺さったなとか、なんかぼやっとしてるなって反応がわかるんで。

それを積み重ねていくと、やっぱ数字って伝わりやすいんだなって。

羽田野

仕事の中の説明だけではなくて、いろんなところでいろんな説明をして、刺さるものを振り返ってみると、数字を使ってるときに刺さるなってことが見えてきた。

岡本

僕が販売してる品のほとんどが、どちらかというと感性に訴える抽象的なものが多いんです。

書画なんか説明が難しいんですけど、どうやって伝わりやすくするかというと、歴史的な数字とかディテールのほうが刺さりやすいのがあって。

自分も誰かから説明を受けた時に、抽象的よりも具体的なものの方が認識しやすかったり。それを説明に取り入れてからですかね、時間短縮になったのは。

羽田野

それまでも説明をしていたけれども、数字を使うことで、手間というか労力が短縮されたんですかね。わかりにくい伝統工芸品の良さをどう伝えるかという試行錯誤があったと思うんですけど、もともと試行錯誤は気づいたらやってるような?

岡本

気づかなかったですけどね。興味があるので、あ―だこーだ、いろんなことをやってるんですね。たぶんそこにハマったんだと思います。