技能五輪全国大会まであとおよそ1ヶ月。去年の金メダリストで、今年も出場する選手は、2連覇がかかります。これまで見てきた選手の中で、2連覇がかかった状況の中、2連覇を果たした選手はだいたい50%。多くの選手は翌年も本命視されますが、その半分は連覇を逃しています。

そもそも金メダルをとることが難しく、獲得率は5%程度です(能力差や職種ごとの選手数を全く考慮しない単純な計算。金メダリスト42名/選手の総数が1000名として)。2回連続でとる確率は0.25%と、さらに難しくなります。それを考えると50%は高確率な気もします(ケース数がそもそも少ないですが)。

なぜ連覇が難しいのか?については、色々な要因が影響するので特定は難しいですが、ここでは学習サイクルに注目し、連覇を逃す選手と連覇できる選手の違いについて考えてみたいと思います。

学習サイクルとは、私たちが知識やスキルを習得する際に自然と、または意識的に行っているパターンのことです。例えば、以下のようなサイクルがあります。

 

目標や計画の問題

金メダルを獲得する前と比べて、目標や計画の高さ、緻密さが損なわれる可能性があります。金メダルは頂点であり、獲得すると「これ以上何を目指せばいいのか」という感覚になる選手がいます。目標の喪失です。実際には向上や改善の余地はいくらでもあるのですが、頂点にたったことで、そういった余地には目が向かなくなったり、燃え尽きてしまったり、金メダルに魅力を失ってしまうことがあります。これらの背景にあるのは結果のみで自己評価するマインドセットです。

一方で、金メダルを2年連続で獲得する人の共通点を探してみると、金メダル獲得はたまたまだったとか(例:採点が甘かった、課題の難易度が低かった、自分の得意な課題だった、本命がこけた、など)、自分の力は十分に発揮できなかったとか、改善の余地がいくらでもある、などと考えています。これらの背景にあるのは、結果だけでなく自分の成長にも焦点をあてたマインドセットです。

遂行の問題

訓練の量や強度も下がる可能性があります。金メダルという成功を収めた選手は、満足感やある種の過信が生まれることがあります。その結果、選手に向上や改善の余地があっても、「十分やれている」や「これくらいでいい」といったように訓練の量や強度をセーブしてしまうのです。実際、私が実施するEコンダクトスキルの研修においても、「自分は金メダルをとったのだから、メンタルについて学ぶことはない」という姿勢で取り組む選手がいましたが、そのような選手は2連覇を逃す傾向にあります。

一方で、金メダルを2年連続で獲得する人の共通点を探してみると、自分の成長に関心があるので、「もっとできる」とか、「ここを伸ばしたい」といったように、訓練の量や強度を維持したり、場合によってはさらに上げたりします。

省察の問題

省察は、振り返りのことです。振り返りでは訓練でうまくできたこと、できなかったこと、確認して、成功の原因分析、失敗の原因分析をします。そこから得られた気づきなどをもとに、目標や計画、訓練のやり方を調整します。例えば訓練が期待通りでなければ方法を変える、期待通りなら続けるなどです。金メダルという成功を収めた選手の中には、この省察の質が下がっているケースがみられます。一般的に、人は「すでに知っている」と思ったことに対して好奇心が働きにくく、気づきを得にくくなる傾向があります。そのため、実はもっと効率的な作業方法があったり、いままでやったことない方法が効果あったりするのですが、そういった発見や体系化ができなくなってしまいます。

一方で、金メダルを2年連続で獲得する人の共通点を探してみると、自分の成長に関心があるので、「これはまだ知らなかった」とか、「知っていたけどさらに理解が深まった」、「これとこれが実はつながっていることに気づいた」といったように、好奇心が鮮度を保っていて、知識やスキルがより広く深くなっていきます。

まとめ

金メダル獲得後の問題には、目標や計画、遂行、省察の側面があります。まず、目標が高すぎて失われたり、達成後に成長への焦点が欠けたりする可能性があります。また、成功後の訓練量や強度も下がり、過信が生まれることがあります。一方で、2年連続金メダル獲得者は自己成長に焦点を当て、訓練を維持・改善し、好奇心を持ち続ける傾向があります。成功に満足せず、絶えず向上を追求することが重要となります。