かつて経験が浅かったころの西本さんは、いろいろな方向から飛んでくる指示が耳に入らず怒られることも多かったそうです。技術を高め知識を深めた今 の西本さんは、献立全体から逆算して段取りを組み、最適な順番で作業するそうです。いろいろな指示というインプットを、献立というシステムで整理し、最適 な作業というアウトプットにつなげています。

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西本
若い頃はしょっちゅうパンクしとったわ。なんだろうなぁ、やっぱり慣れてなくて。あっちからもこっちからもあれやっといてっていわれると、覚えられないんだよ。
西本
やっぱりまだ、なんていうの、スピードだって遅いし、技術もないし。一個の仕事にわりとかかってしまう。一個のことやるならそれに集中してしまう傾向があって、そうするとそれやったら忘れてしまう。あれできてるかっていわれて、あれってなっちゃうなぁ。
羽田野
言ったほうは言ったから覚えている。でもやる方は一個に集中しているから、言われたことは残ってなくて。なんだっけってなる。
西本
ふうって一息ついたら「あれできてるか?」っていわれてってのはあるな。
羽田野
集中は料理にしてる。一個できたらふうってなるくらいの集中力を注いでいる。場合によっては周りの声が聞こえなかったり、集中してるからこそ、外から入ってくる情報って。
西本
それがね、集中というよりか、ほんとは違う集中で。本当に集中しているとたぶん全部聞けるんだよ。なんていうのかな。慣れてくるとな。慣れるとこう、早くなっていく。どうすれば早くなるかなって常に考えないといけない。早く綺麗にするにはどうすればいいのか。先輩はどういうやり方で早いのか見る。そういうのやっていってだんだん慣れてくるわけじゃん。そうなってくると聞けるんだよ、周りの声が。あの人なにしているのかなって。
羽田野
人のことが。それって、ある瞬間そう思った?
西本
だんだんそういうふうになっていくのかな。
羽田野
気づいたら?
西本
そうなっていくのと、あと段取りっていうか、あれやれこれやれっていわれて、どれ優先させればいいのかなって。それがさっき言ってた組み立て。これ急いでるからここからやっていくか。これまだ時間かかっていいんだったら後に回すとか。先にこれやって、時間余裕あるんだったらこれ後にしようとか。
羽田野
時間見て、余裕みて、後に回していいものと、これが急ぐものってわかるようになっていったのはどういうふうにそうなっていった?
西本
なんだろうなぁ。たとえば料理を出す順番からみてってとか。これを割と早めに一皿目二皿目にもっていくものを言われているなぁこれはと思えばそれからやるし、漬け込む時間をしっかりおいてふくませておくもの、これを先にやっとかないと提供のとき味しっかり入らないなとか。
羽田野
提供が一つあって、そこに向かって。
西本
逆算する。
羽田野
最初の頃こういうことを言われたたとしたら、それはどういうふうに受け取った?
西本
もう言われた順番からだよね。わかってないから。
羽田野
言われた順番からってのが最初あって、順番のなかで違う集中、いくつか集中があるとして、調理に集中していると、言われた順番からやってる情報が抜けることもあり。だんだん段取りとかわかってくると、最終的なものに対してどういう順番でやるのかがわかるようになっていった。そうなっていくのが最初、始めたときからの一つの目安。そもそも料理を始めたタイミングっていつなの?
西本
えーといつかなぁ。おれは遅かったんだよな。21とかかな。魚屋をやめてから。21。
羽田野
いつくらいから段取りみえるように?
西本
25とかかなぁ。4年くらいかかったかな。
羽田野
ずっと同じ職場にいた?
西本
うん、同じところ。和食屋。
羽田野
いわれた順番で最初はやってたけど、だんだんそれがわかって、自分で判断できるようになっていった。
西本
献立を理解する。理解できるようにしていかないと、たとえば、なんだろうな。この料理のときになにが必要かわかんないと。特に仕入れとかやらされるようになると、おれもよく忘れてましたってけっこうあったけど。あわてて買いに行ったり。
羽田野
献立を理解しろっていわれたこともある?
西本
あるよ。最初のころは。
羽田野
最初の頃はどういう意味だと思ってた?
西本
漢字でばーって書いてあってわかんないんだよ。最初って。聞くしかない。聞くとか、自分で調べる。本を読んで調べる。読んで、あーこういうことか。その繰り返し。
羽田野
理解するために、見る場所はここを見ようと思って見てる?
西本
より自分の立場に近い先輩がやってるのを。いつ新しい仕事を、今までやってきたもの以外のことをポーンって投げかけられるかがわかんなくて、そこで戸惑っていると干されるんだよね。
西本
見てれば、100%正解できんくても、70%くらいだったらこいつみてたんだなってわかってもらえれば、またチャンスがもらえる。
羽田野
干されるって状況があるんだね。修行の中で。
西本
もちろん。だって、できないやつにやれっていうより自分でやった方が早いじゃん。
羽田野
振られるのがいつかわからないけど、振られたときにできる準備を普段からしていて。立場に近い人の仕事は、次に自分がやる可能性が高い。
西本
あんまりかけ離れたのやってもわけわからんから。
羽田野
かけ離れた上の。
西本
難しい仕事とか、最初の方。
羽田野
いまの自分は、この21歳の頃から比べるとかけ離れたところにいると思う?
西本
もちろん。もちろん別物だね。
羽田野
このときの自分に教えることがあるとすると、何をこの段階でできるといい?
西本
最初のころ?そうだなぁ。なんだ?失敗を恐れるな。とにかく、わかるまで聞きに来い。
羽田野
それは失敗は怖いんだね。
西本
怖いね。いまでも。すげーやでしたくない。なんだろうな。若かった自分に言いたかったこと。やっぱそれだな。知らないものを知らないままにしとかない。
羽田野
知らないものを知らないままにしない。これを聞いた自分はなんて言いそう?
西本
そんなんわかっとるわ。わかっとるわっていうんだろうけど、より積極的に。おれはあんまり積極的じゃなかった。そこがちょっとダメなところなんだけど。
西本
もっといいよ食ってかかって。仕事って横取りしにいかなきゃ。それは自分もだし、いまの若い子もあんまりない。自分からやっぱりとりにいかんとなって。そのためには、自分の段取り、自分の仕事いかに早く終わらせて、人のやってるのをいけるか。自分のをおざなりになって、人にこれやらせろっていうのは筋が違うことで。自分のとこちゃんと終わらせて、それから人のを。
羽田野
自分の仕事をどれだけ早く終わらせられるか。
西本
先輩が来るころにはできてないといかん。