多くの仕事を引き受けると、一人ではさばききれないレベルの負荷かかり、負荷を分散する必要にせまられます。しかし、そうした負荷は、「やり方の細胞分裂」を促す場合もあります。中原さんは、自分を2つに細胞分裂させ、負荷を分散しました。1つは、自分の中を分ける方法です。自分の中に幾つか役割を作り、やることの切り替えに関する負荷を分散します。もう1つは、自分の外へ分ける方法です。自分だけで仕事を抱えず、人に任せます。自分のやり方をこのように変えることができたのは、今までと違うやり方をしても、自分の期待通りか、それ以上の成果が得られると理解したことが、重要だったといえます。

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羽田野
こういう一連の流れっていうのはおそらく経験重ねていくなかで、やりとりが蓄積されてできる部分もあると思うんですけど、これって人に教えるときはどうしてます?
中原
どうしようかなって。経験によるところも多いので。手っ取り早いのはまずはOJTでこういうことをやっているって。見えるところは見せて共有する。一緒に打ち合わせいくとか。見えないところにはこういう知識があって、こういうことがあるからああいう発言になったんだよって言葉で説明するし。
羽田野
一緒にいて、見てもらう。
中原
ほんとはこの辺をなにか図式であったりとかドキュメントとして残していけるといいんだけど。っていうところですね。
羽田野
聞いてる中でいろいろと基準があったり、そこに至った背景がいろいろあるんだろうなって思うんですね。たとえば時間の見積もり、大体これってこのくらいでできるっていうのって、作業工程一つ一つの大体の見積もり時間を直感的にやってそれを積み上げるていると思うんですね。経験がない人ってこの見積もりがわからないので、このくらい?みたいになる。ある人ほどここが分割してるし、ここを抜いたらもっと早くなるってわかると思う。何に対してどういう単位なのか、わかりづらい部分もありますね。いま聞いてると、たとえばRFPってどのくらいかかりますかとか。案件によって違うんでしょうけど、WBSってどのくらいですかって。2日が2週間に伸びるのって、どのタイミングのどこにアンテナ張られているのかって。
中原
いま話をしてて気づいたのは、時間を見積もったときに、この作業がどのくらい時間かかっててのは、なんとなく感覚的にはある。エンジニアやってると誰しもある感覚。だけど、新人とか若い人にはわからないのかもしれない。
中原
経営者がよくいわれるのは時間を全部つけておけって。作業するときに、ちょっと面倒だけど一個一個に何分かかってるのか計測していって、データとしてもっていて。より的確な見積もりが、経験のない人でも共有できるように。
羽田野
時間感覚を養うのって一個一個の作業にかかってる時間記憶の蓄積だったり。そういう意味でもいいんでしょうね。面談の技術を教えててもそうなんですけど、1時間だいたい面談やるんですけど、何分ころになに話してたかベテランの人は覚えている。経験が少ない人ほど覚えていない。人の話がどのくらいになると何分、自分がどのくらい話すと何分と把握するのも技術でしょうし。そういうのがわかってくるっていうのは、ある種の仕事全体像が見えたりとか、気持ちに余裕ってほどではないにしても、自分を客観的に見えるタイミングにいたってはじめてできることかも。自分を客観視できるなみたいな、ひいてみれるなって感覚になったタイミングはどのくらいの時期からですか?
中原
フリーでやり始めて、複数の案件を回し始めてから。職人とマネジャーっていう2つの見方ができないと。自分で物を作ってて、ちょっと遅れ気味ですと。職人とマネジャーがほんとは別であればマネジャーがそれを把握して、いまちょっと遅れている。お客さんと調整して、全体的に遅れてるんですって話をして、マネジャーが作ってる人にどういう状況なのって確認するのは当たり前。でも自分で作ってマネジャーやってると、それめんどくさくなるから。コミュニケーションが少なくなったりする。そうなったときに、これはよくないなって第三者的な視点で、作ってる人の言い分としてはこうだけど、マネジャーの言い分としてはこうだろうなって。
羽田野
見てるもう一人がいるんですね。
中原
全体を俯瞰してる人格が。ほんとは時間を分けて作業する、たとえば朝一番早い時間ではマネジャー的に動いて、午前午後は職人として動く。1日のスケジュールで。
羽田野
1日の中でそれを分ける。
中原
時間帯で、自分の仕事を分ける。
中原
全体を俯瞰してる人格が。ほんとは時間を分けて作業する、たとえば朝一番早い時間ではマネジャー的に動いて、午前午後は職人として動く。1日のスケジュールで。
羽田野
いつぐらいから?
中原
それはいつぐらいからかな。会社にしてぐらいからかな。フリーランスのときからやりはじめて。自分で全部やらなきゃいけなくなると必然的にそういうふうになっていくので、最初はあんまり仕事がないけど、徐々に増えていくとさばききれなくなっていくので。そのタイミングは、フリーランス1年半くらいかな。それくらいで法人化したので。
羽田野
法人化して。こういうことをやらざるを得なくなる。
中原
自分でやろうっていうのを諦める。最初全部自分でやった方が120パーくらいでできるって思ったけど。結局抱え込んじゃうと一人でやると70くらいしかできない。だったら人にお願いして。
羽田野
その判断に至るためには、無理だなって経験が必要でした?その前の段階の中原さんに話したら、あそうか、って切り替わりました?
中原
経験がないとなかなかそうならないので。たとえば本読んだり勉強してできるかっていうと、なかなか身にはつかない。
羽田野
無理だと思う経験が必要なことかもしれないですね。失敗じゃないかもしれないけど。
中原
限界をわかったりとか、こうあるべきってのができなくなったタイミングとか。まずは限界のポイントが必ずなにかしらあるので。
羽田野
限界のポイントを経験して、一人でやっても70くらいにしかならない。
中原
だったら、人にお願いして60くらいできれば、最後の10パーくら自分でやるの方が全然効率がいいし。
羽田野
タスク・スイッチングっていう、たとえば割り切りですよね。タスクって一つのタスクもそうですけど、役割によって変わると思うんですね。職人としての人格とマネジャーとしての人格をどう切り替えているのか、やり方の一つとして、時間帯で切り替わっていくようにしていて。それは切り替えを忘れてしまうとか、どっちかの人格によりすぎるのを仕組みとして防いでいるんですね。