伝統工芸や古美術品の売買、オーダーメードを手がけるの岡本国裕さんが、伝統工芸品や古美術品を国内や海外で取引する中で、職人さんや海外の文化から学んだこと、数々の試行錯誤や実験を通して気づいたことについて、お話してくださいました。第3回目は、こけし職人さんに直接触れることで見えた伝統工芸の価値と、そこから得られた売りて手としての自信についてです。

 


岡本

これちょっと余談になっちゃうんですけど、一回、こけしの産地にみんなを連れてったんですよ。

伝統工芸ってのは宮城県の伝統こけしってのが発祥なんですけど。そこからもともと積み木とかだるま落としとか木の玩具を作っていた群馬県が目をつけて、創作こけしという結構モダンなやつを、コンクールをへて作り出したんですよ。

そこで藤川さんっていうもうキャリアでいうと55年くらいたっている方と、卯三郎さんという2大巨頭がいるんですけど、その両方の工房をまわったんです。片方は三代目の岡本義弘さんといって私と名前が似ていたのでめっちゃ仲良くなったんですけど。

もうひとりはベテランの藤川さん。藤川さんのところは個人的に好きだったので、パートさんを連れて行ったんですけど。55年前からずっと木を削って彩色して、どうしたらお客さんにいいものを安く提供できるかってことの一点を考えて作り続けてる、その背景を話してくれるんですけど、パートさん感動して泣いちゃって。

非常に実直で。僕らからみたら山の中の工房で、おがくずにまみれながら木を削ってらっしゃるんですけど、そんな事考えながらずっとやってたのかと。実際に店頭に並ぶ金額と比べると、職人さんが貰ってる金額って恐ろしいくらい安いんですよ。

「もっととって下さいよ」って言ったら上代上がっちゃうんで、簡単には言えないんですけど。それにもかかわらずひたすら55年やり続けた事を考えると、すさまじいなと。職人魂を見まして。

羽田野

安いという値段だけの部分じゃないものが、職人さんにはあるんですかね。

岡本

当時から考えると、世間の物価の上昇に比べて、職人達はなるべく値段をあげないようにやってきている部分があるんですね。切磋琢磨をいままでずっとやってきて、過去の作品が並んでいる工房があるんですけど、確実にステップ・アップしてるわけですよ。

羽田野

55年分のこけしが並んでるんですか。

岡本

ぜひ他の方にいっていただきたいんですけど。最初はフォルムとか、ちょっと焼きごてで色つけたりってところから彩色がはじまり、表情が変わり、サイズが変わるとか、いろんな試行錯誤が木を削っただけの中にありまして。

いま世界中でこけしが大人気なんですよ。卯三郎さんは発注残が1万個超えて。凄まじいんですよ。発注残ですからね。

羽田野

発注残。

岡本

注文来ても作れないんですよ。

羽田野

そういうことがあるんですか。

岡本

で、これちょっと面白かったんですけど、職人さんが、「僕らも人間なんで、注文したとおり全部作ってあげたいんだけど、同じものを何年も何十個って毎日毎日作るのはしんどいから、たまに気分転換でいろんな種類つくらないといけない。だから注文残は許してくれよ」って。

羽田野

いくらなんでも同じものをずっとはやってられないんですね。

岡本

ところがこれ、売り場にいて、注文したものが伝票通り来るか来ないかだけを見てると、いつまでたっても来ないなここはってネガティブな面ばっかりが見えちゃうんですよ。

羽田野

人間としての人の気持ちの動きとか、毎日同じ事やったら飽きるとか、限界があるとか。それは交流の中でわかってくることで、伝票だけのやりとりで想像するのは難しいものなのですね。「こねーなぁ」って。

岡本

結局、僕らと職人さんの間には必ず問屋さんがいたので、その問屋さんのフィルターによって全然聞こえ方が違うんです。

羽田野

問屋さんフィルター。

岡本

問屋さんは問屋さんで、彼らの任務を全うしているわけで。店頭にきて、頼んだ物が来ないときに、「すいません、なかなか来ないんですよね」って感じで済む場合もあるんですけど。問屋さんがもし職人さんと親しい存在であれば、「ここの職人さんは発注残がすごいし、人間なので、同じもの作ってられないんですよ」って一言いってくれたらね。

そこに僕らは付加価値をつけて、お客様に話をできたんだけど。「この職人さんね、全然注文しても品物がこないんですよ」って愚痴っぽくなると、僕らもね、印象良くないんですよ。

過去はそうだったんですけど、実際に職人さんと直接やり取りしてくると、現場の風景が頭に思い浮かべられるようになっていて、そこから僕だけじゃなくて、一緒に働いてたスタッフも、写真見せながら、「この職人さんね、世界中から注文きちゃって、いま売り場にある在庫これだけなんですよ、だから買ったほうがいいですよ」っていう切り替えに変わったんですね。

羽田野

注文が遅い、あるいはしても全然来ないって捉え方だったのが、職人さんの背景を知ることで、むしろそれが付加価値に変わったってことなんですか。

岡本

これは嬉しかったですね。

羽田野

すごい転換だったんですね。

岡本

こけしをきっかけに、他の商品全部に波及していくんですね、その後。

羽田野

ものの捉え方とかやり方がってことですか?最初はこけしからだったんですね。実は職人さんとやりとりするとそこに55年の歴史がつまっていたりとか。あるいは、人としてのそういう物を作れる人だからこそ、人間の部分として同じ物を作れない、けれど頑張ってるんだとか。

単に入荷がないなとか、当然言うんだろうけど、「実はこれね」って話ができるようになっていったんですね。

岡本

機械の大量生産と伝統工芸の根本的な違いで、伝統工芸ってジャンルは結構厳しいんですね。経済産業省だったかな、省庁が決まっていて、産地として成り立ってないといけない、その土地のものを使わなければいけない、かつ、歴史がある。

経済産業省の定める伝統工芸品の5要件(外部リンク)

羽田野

定義があるんですね。満たしてないと名乗れない。

岡本

これが結構厳しくて。伝統工芸に認定されるまでにかなりの道のりがあるんですよ。その中に根本としてあるのが、用の美、使われる美しさ。根本的に伝統工芸の主要たるところで。現在に生まれてる人は、物があって当たり前なので。すぐにお金で買えるインフラが整ってるじゃないですか。

だけど伝統工芸は簡単に生み出せないところに趣が生まれる、いろんな職人さんに会って、いろんな産地を巡って、ようやくポイントが見えてきまして。それまでは売りづらいものはあったんです。なんでこんな無骨なものがこんな金額するんだろ、ちょっとこれ値段とりすぎじゃないのかなって感じるものがあったんですけど。

色んな所のいろんな職人さんのプロセスを見てると、たぶんここに力がかかってるのかな、ここに手間がかかってるのかなって見えてくるんですね。そっから話の仕方が変わりましたし。お客さんも、いろんなものを見てる方がいるので、これなんでこんなに高いのって素直に疑問に投げてくれる人いるんです。

そういう方にね、実はここにポイントがあって、このためにこの金額なんですよねって。すぐ返せるようになって、それはすごい自信になりました。