伝統工芸や古美術品の売買、オーダーメードを手がけるの岡本国裕さんが、伝統工芸品や古美術品を国内や海外で取引する中で、職人さんや海外の文化から学んだこと、数々の試行錯誤や実験を通して気づいたことについて、お話してくださいました。第4回目は、産地に行き職人さんと直接交流することで起こったモデル学習と、そこから得た新しいマインドセットについてです。

 


羽田野

説明が返せるようになったのは、以前はそういうことはあまり。

岡本

着任当初は、出入りの問屋さんから仕入れた品に値段をつけて売ってったんで。産地情報程度をインターネットや書籍を読んで、説明する程度の薄い情報でした。

羽田野

「売る」のプロセスの中で、自分で調べたもの、インターネットとか本とか人とか、こういうのを自分で調べて、入ってきたものを売るのがこれまでのプロセスであった。これが大きく変わったのは、職人さん。

岡本

そうですね、産地と職人さんですね。

羽田野

職人さんと産地が加わって、これはこけしとか、漆。

岡本

漆器を始め、お箸、陶器などなど多数です。

羽田野

すごいいっぱいありますね。

岡本

そうなんですよ。すごくあるんですけど。当時5年前で252箇所あったんですよ。今は232箇所くらいになってて。跡継ぎ問題でどんどん減少している印象です、産地が。一箇所一箇所に歴史やドラマがあるので、とても悔しいです。

羽田野

これは伝統工芸の産地ですか。

岡本

認定されている産地だけなので、実際そこに関わってる工房や職人の数は倍以上でしょう。

羽田野

これって伝統工芸マップみたいのが、あるんですか

岡本

あります。

羽田野

そこに散ってて、全部・・・

岡本

全部は回れてないんですけど、自分たちが伝統工芸を売っていたので、伝統産地マップを自分で作ったんです。

「この作品はこのエリアで作られてますよ」と、最初はその程度でしたが、産地を訪ねて職人さんから話を聞くと、道具や工法に特色があり、とても面白かったのです。写真をお見せしたいぐらい特殊な光景がいっぱい見れました。

羽田野

それは治具として自分たちで作ってるものですか。

岡本

そうです。自分の体型だったり、表現したい作品を作るために、既存の道具じゃだめなので。道具をつくっちゃうわけですよ。それがまたユニークで。

羽田野

専用機みたいな。それを使うことで自分の技能がさらに高まる

岡本

それら道具をみて興味を持ち、空港店舗の展示作りに取り入れるようになりました。ポップ、プライスカード、展示台などすべてに手を入れるようになりました。商品を一番良い感じで見えるような台、アクリルや発泡ボードを組み合わせる自作展示にハマりまりました。

扇子の拡販に真剣に取り組んだのが一番の成功例で、扇子の既成展示用具は使い勝手が悪く、使いにくく見栄えも古臭い印象のものが多く、コストを欠けずに理想的な台をイメージして、一列7扇、横に3列の専用の什器をホームセンターの材料で作りました。

羽田野

自作したんですね。

岡本

店舗の棚にちょうど良い寸法でバッチリのやつです。費用は6千円くらいしかかかりませんでした。扇子は軽量なので、強度を気にせず簡な構造で作れました、一番の驚きは、前年の扇子の月間60万が月間190万ほどに上がりました。

羽田野

3倍。そんなに売れるのはすごいですね。

岡本

で、それが3シーズン。同じ、6千円の什器で。

羽田野

その3シーズンずっと。

岡本

なんどか壊れましたが、すぐボンドでくっつけて笑

羽田野

自分で作ってるから自分でできるんですね。

岡本

他店がその扇子の棚がいいから、くれと。断りましたけど笑

羽田野

この棚がそんなに劇的な変化につながったのは、どういう要因が考えられるんですか?

岡本

職人さんも、自分が表現したいものがあるときに、どうしても既存品では出来ない場合、道具を作っちゃうんです気楽に。自作なので失敗しても後で調整したらいいし、結構気楽に挑戦していました。

自分もやるべきだなと。元々バイクいじりが好きで。ちょっと手を加えて自分流にするってのが好きだったんです。

で、扇子台を作ってからすっかりハマりました。POP作成に始まり、器も置くだけじゃなく、少し斜めにするだけで見栄えが全然違うので、器の底や高台を見やすくしたり。少しの展示を変えるだけで、お客様の反応が全然変わるところが、日本一の成田空港の良さでした。

羽田野

言い方が適してるかわからないですけど、毎回実験をして、わかりやすくフィードバックが返ってくるみたいな状況ですか。

岡本

そうなんです。早いんですフィードバックが空港は。国内外いろんな人種の往来があり、展示が正しいとハマって売れるんですけど、ミスってると売れないんですよ笑

羽田野

ミスってハマっちゃうと売れなくなる。いい方向にハマれば売れるし。

岡本

それがあの空港店の面白いところで、展示作りにとても興味が増えました。職人さんの制作光景などの特徴を、展示にどのように活かすかを考えるようになりました。

羽田野

それはさっきの流れがあってということで。扇子をっていう話も、産地にいって職人さんと話をされて。そういうストーリーがあって、売り方が変わって、変わった中で職人さんの言葉があって。自分でやってみようかなってことと、そうまでして売りたいなって思い入れがものに対して生まれてた。

岡本

そこですね。こけしの話に戻ると、なんでパートさんが泣いちゃたのかというと、今まで職人さんはお客さんが喜んでる顔をみる機会がとても少なかった事なのです。これある意味ショックで。

僕らが、工房に販売店として訪問して売場や顧客の状況を説明したのは、稀なケースでした。

羽田野

売り手側がコンタクトとったことがない。

岡本

商流でいうと問屋を飛び越えてっていうのは昔の商流では違反なのでしょう。いまはだいぶ問屋さんも寛大になってくださいました。

お陰様職人さんを訪問して、その交流があったときに、「あ、そんなに喜んでくれてる、注文は来てるから安心はしたけど、そうだったんですね」って感謝されたんですね。

むしろ逆なのに。遠回しですが心が通じたような気がして嬉しかったんです。せっかく、熟練の職人達が愚直に一生懸命作った作品を、自分たちがただ棚において売るだけでは物足りないと感じ。照明を変えたりとか、説明書きを変えたりとかっていう工夫がそこから始まったんです。