コーピングとは「難しい状況や問題・課題にうまく対処し、切り抜ける」ための知恵や方法論のことです。

技能五輪の選手は訓練を通してコーピングを発達させていきます。私はこれまで100名近くの選手と面談をしてきましたが、最初からコーピングが完璧だった選手は一人もいませんでしたが、全く伸びないという選手もほとんどいませんでした。その発達の特徴を分析してみると、個人差はありますが共通する点もあります。

その特徴を2つにまとめることができます。


1.消火

目指す状態を質問した際、「〜をしたくない」という表現が使われる段階です。

これはその選手が損失回避が優先する段階にあり、自分がどうなると良いのかについてはまだ想像できないことなどが理由です。

何より大事なのは作業ミスや時間の遅れが発生したときに、それ以上の損失を避けるための選択であり、その選択を正しく行うための感情コントロールを行います。

それらを実現するために3つの下位目標があります。「想定外でも真っ白にならないこと」、「自分の感情で炎上しないこと」、「衝動的にならないこと」です。この3つを実現するための具体的な方法を対話や先輩の事例を通して考え、実験し、効果を確かめることで、コーピングが発達していきます。

2.メタ認知

目指す状態を質問した際、「〜になりたい」という表現が使われる段階です。

自分が理想とする課題の取り組み方や、それを実現するための感情状態、集中状態などについて理解していて、目指すイメージが鮮明で具体的です。

ミスや遅れによる損失回避に加えて、「どうすればもっと良くなるか?」を自問し、そのために自分の感情・集中・記憶をチューニングする方法を自ら開発します。

それらを実現するために3つの下位目標があります。「自分と自分が置かれた状況を客観視する」、「集中力を自在にスイッチする」、「再集中する」です。これらを実現するために、言葉、イメージ、身体感覚、補給物など、利用できるものは何でも試し、自分に合わせたセットを作り上げていきます。