西本稔大 | 2 作り分けられる技術

料理はお客さんと料理人が協働で作るもの。それがお店と西本のさんの調理スタイルです。協働を実現するためには、お客さんが明示・暗示するさまざまなサインをキャッチする技術、そしてキャッチしたサインをもとに料理を作り分けられる技術が求められます。

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羽田野
これはいつぐらいからこういうことをやるように?
西本
やり始めたのは今の店からだね。カウンターで仕事しはじめたの自体が初めて。
羽田野
それまでは調理場に。
西本
調理場の中にいたからね。カウンターはカウンターですごく大変。見られてる。言動もそうだし、立ち振る舞いも。バタバタやってってのは。ある程度スマートに見せるというか、意識してないと。
羽田野
大きなものを落とすとか。調理場の中だったら・・・
西本
おさまるけど。あと気配りをして。お客さんは何を欲しがってるんだろうなっていうふうには。
西本
忙しくなってくるとだんだん口数も減ってね。そこらへんがまだまだ自分の課題。むしろこっちの方がおそろかになる。忘れたりはしないんよ、自分のことは。お客さんの方がやっぱりおろそかになっちゃう。
羽田野
自分のなかで優先順位は作っているの?
西本
うん。たとえば、カウンターとテーブルってあったとき、カウンターよりもテーブルの方が気付いてあげる。離れてる分、気にかけてないと、お客さんのほっとかれる感が大きくなってしまう。若干優先的に。常連さんだと忙しくなってくると待ってくれたりする。そういうときはひとこと声かけてフォローする。
羽田野
声があるないで。
西本
全然違う。そういうことなんだと思う。カウンターって。
羽田野
声をかけるっていうのは、どういう流れのなかでそうした方がいいの?
西本
たとえば、そうだね。お皿がもうだいぶ空いて時間がたってる。なかなかそこまでいけないので。そういうときは一言二言。あとは、なにか欲しそうだなとか、動作とかサインなんとなくやっぱりわかる。
羽田野
欲しそうな動作とかサインっていうのは?
西本
メニュー見始めたとか、お寿司屋だからネタをみたり。カウンターだから。逆にテーブルはそういう情報がほとんどないから、なおさらこっちから読み取るようにしたり。
羽田野
カウンターのお客さんはサインが出るんだね。それが気づきやすいサイン。テーブルのお客さんは出てるかもしれないけど、見えにくい。自分から見に行って注目しないと気づかない。
西本
それがだいたい営業時間に気遣ってることかな。
羽田野
営業時間内に考えてることを1〜10のなかで割り振ると、今のなかで、まず調理がある。夜については仕込みは入っていない。調理と接客、接客のなかでも特にフォローを気にしている。目配りもテーブルとカウンターで違う。それから常連さんかどうかでも違う。
西本
常連さんだとどんなもの好きかわかってくるけど、一見さんの場合って、より事細かにやらんと。
羽田野
事細かく。それは常連さんと比べると知ってることが少ないから?
西本
少ないし、向こうもある程度緊張してくるから、緊張を和らげてあげないと。
羽田野
そういうところもフォローする。調理でするのって、どういうのがある?
西本
基本的に最終調理。だいたい仕込みでやってあるから。あとは焼き物、もうおつまみ系はほとんどできてて、盛り付けるだけでパッと出せるようになってる。焼き物とかってのは通ってから。蒸し物。あとはお刺身つくるとか。お造りとか。あとは寿司屋だから握りとか。
羽田野
焼く蒸す切る。
西本
切って盛るだけっていえばそうだけど、お刺身でも好みがある。そういうものとか、たとえば、うちで勧めたいものがあるとか。時期で変わってくるから。
羽田野
だいたい営業中のやることは今の内容で。大きくまとめると自分の頭のなかの割り振りって、割合はどのくらい?調理と接客で分けると。
西本
割り振り?本当は10-10じゃないとだめ。昔は全然できなくて、調理が10で。これがやっぱ課題だと。そういうところをいま教えてもらってる。やっと少しずつ見えてきたなって。意識は5-5なんだけど、やっと今7-3だったり6-4の意識になってきたかな。
西本
どれだけ美味しくても待たせたりフォローなかったら美味しくないんだよ、お客さん。人間だから。自分が行ったときはそうだもん。自分なんか一人で行くから、ぽつーんとほっとかれるとあんまり気分よくない。なかなか出てこなくても一声あったら嬉しい。
羽田野
自分の客としての体験もあって、どういうのがいいのか調べてる。
西本
そういうのも見に。素晴らしい接客する人ってすごいんよ。こんなふうにされたらそれはいいわな。少し高くても、このレベルならって思わせる。
羽田野
値段以上の接客が感じられる。
西本
やっぱりよく気持ちとか心って言うけど、そういうところなのかなって。これをやっと35、6になって気づき始めている。
羽田野
前までもそうことは大事だと思ってた?
西本
漠然とは思ってたけど、頭そんな柔らかくない。この一個をつくるのに全精力傾けたいんだと。焼くならもう、極端な話、魚の水分量どのくらいかとか完璧なものを作りたいってのがある。接客の方とかってなかなか難しくて。
羽田野
これって逆の配分の人もいる?
西本
いる。特にお寿司屋さんとかしゃべっていくらとかだからしゃべんないと。それがカウンターっていう形態の特徴。たぶんこれ日本だけだと思うんだよね。お寿司屋さん、カウンターって。しゃべって、コミュニケーションから生まれる。お勧めというか、おまかせって出すときもあるけど、お客の意見をきいて、客と料理人で作っていく。うちはどっちかっていうとそういうスタイル。いろんなお寿司屋さん、うちはお決まりですってところもあるけど、うちはお客の意向をきいて。
羽田野
お客さんから聞く情報が調理につながる。どういうふうに情報をえられるかは、そのまま調理の一つの要素になる。
西本
そういうふうに作り分けられる技術があって、できないといけない。
羽田野
自分がやりたいようにやっているだけでは。
西本
それでは足りないんじゃないかな。
羽田野
ここはこう、かたち上わけているけど、両方とも重要な影響を与えあう。この容量を超えることってある?頭の中で一度に処理できる量はある程度決まっているといわれていて。納めるようにやり方工夫したりとか。皿を外に出すと覚えておく容量を削減できたり、全部準備してあと盛るだけにすれば、そこにかける手間を事前においておける。そのとき使える容量を確保する工夫がいっぱいあると思った。場合によっては処理できる以上のものもくると思うんだけど。超えることってあるの?
西本
超えることは、むしろ体が一つしかないから体が追いつかないけど、頭がパンクすることはそんなない。それだけの規模だから、それ以上はお客が入ってこない。店の大きさとかだったり。